スカラ座とジョン・レノンまた聖母マリアがさんざめく時間

毎年１２月７日と決まっているスカラ座のことしの初日には、ジョルジャ・メローニ首相がマタレッラ大統領やウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長らと共に顔を出しました。

大統領と委員長はEU信奉者。片やメローニ首相は反EU主義者。首相になってからはEU協調路線を取っていますが、腹の中は分かりません。

しかしそこは大人同士。誰もが政治的立場を脇において華やかな文化イベントを楽しみました。メローニ首相はスカラ座でのオペラ鑑賞は初めて。

アルマーニファッションに身を包み「とても緊張し同時にとても楽しみにしている」とテレビカメラに向かって率直に語りました。

スカラ座の開演の翌日は、ジョン・レノンの命日。偉大なミュージシャンはちょうど４２年前、つまり１９８０年の１２月８日にニューヨークで理不尽な銃弾に斃れました。

筆者はジョン・レノンの悲劇をロンドンで知りました。当時はロンドンの映画学校の学生だったのです。行きつけのパブで友人らと肩を組み合い、ラガー・ビールの大ジョッキを何杯も重ねながら「イマジン」を歌いつつ泣きました。

それは言葉の遊びではありません。筆者らはジョン・レノンの歌を合唱しながら文字通り全員が涙を流しました。連帯感はそこだけではなくロンドン中に広がり、多くの若者が天才の死を悲しみ、怒り、落ち込みました。

毎年めぐってくるその１２月８日は、イタリアでは「聖母マリアの無原罪懐胎の祝日（festa dell’immacolata）」です。

多くのイタリア人でさえ聖母マリアがイエスを身ごもった日と勘違いするイタリアの休日ですが、実はそれは聖母マリアの母アンナが聖母を胎内に宿した日のことです。

イタリアの教会と多くの信者の家ではこの日、キリストの降誕をさまざまな物語にしてジオラマ模型で飾る「プレゼピオ」が設置され、クリスマスの始まりが告げられます。

人々はこの日を境にクリスマスシーズンの到来を実感するのです。

そのように１２月の初めのイタリアでは、スカラ座の初日と「聖母マリアの無原罪懐胎の祝日」に多くの人の関心が向かいます。

イタリア住まいが長く、イタリア人を家族にする筆者は、それらのことに気を取られつつもジョン・レノンの思い出を記憶蓄積の底から引き上げたりもします。

ロンドンとニューヨークとミラノは筆者にとって縁深い土地です。

ロンドンは筆者の青春の濃い１ページを占め、ニューヨークは筆者をプロのテレビ屋に育ててくれ、ミラノは仕事の本場になりほぼ永住地にまでなりました。

筆者にとって毎年１２月７日から８日にかけての時間は、スカラ座開演のニュースとジョンレノンの思い出とimmacolataの祝いの話題が脳裏に錯綜する多忙な時間です。