2023年のクリスマスは温い1日でした。温暖化に加えてシロッコが吹き、北イタリアガルダ湖畔にそびえるバルト山頂の雪も消えてはげ山のようでした。
シロッコはアフリカのサハラ砂漠由来の乾いた風。
そこの高気圧と地中海の低気圧がぶつかって生まれ、地中海に嵐を引き起こし、イタリアに到達するころには海の湿気をたっぷり飲み込んで蒸し暑い風となります。
欧州ではイタリアのシチリア島をなぶった後、北上してイタリア本土、フランスなどに序陸します。春や夏に吹くシロッコはただの蒸し暑い風ですが、冬にやってくるシロッコは異様です。
それは例えて言えば、自然の中に人工の何かが差し込まれたような感じ。つまり、寒気という自然の中に、シロッコの暖気という「人造の空気」が無理に挿入されたような雰囲気です。
シロッコも自然には違いないのですが、寒い時期にふいにあたりに充満する気流の熱は、違和感があって落ち着きせん。
暑い季節に吹く、さらに蒸し暑いシロッコには、不自然な感じはありません。それはただ暑さを猛暑に変えるやっかいもの、あるいはいたずらもの。
夏が暑かったり猛暑だったりするのは当たり前ですから、ほとんど気になりません。
しかし寒中に暖を持ちこむ冬場のシロッコには、どうしても「トツゼン」の印象があります。まわりから浮き上がっていて異様です。なじめません。
そう、冬場に吹くシロッコは、寒いイタリアに「トツゼン」舞い降りた異邦人。疎外感はそこに根ざしています。
シロッコは春と秋に多く生まれますが、一年を通して吹く風です。昨年、クリスマスの前後の日々を焼いていたシロッコは、12月22日の早朝に始まりました。
冬至の日の朝、窓の外扉を開けると殴るような風が吹いて扉を石壁に押しやりました。真冬だというのに強い気流にはむっとするほどの熱気がこもっていました。
あ、シロッコだとすぐに悟りました。
地中海沿岸域に多く吹くシロッコは、時には内陸にまで吹きすさみ或いは暑気を送り込んで、環境に多大な影響を与えます。
中でも最も深刻なのは水の都ベニスへの差し響き。シロッコはベニスの海の潮を巻き上げて押し寄せ、街を水浸しにします。ベニス水没の原因の一つは実はシロッコです。
サハラ砂漠で生まれたシロッコが、イタリアひいては南欧各地を騒がすのは、ヒマラヤ起源の大気流が沖縄から東北までの日本列島に梅雨をもたらすのに似た、自然の大いなる営みです。
official site:なかそね則のイタリア通信