マフィアの殺人鬼との司法取引は正か邪か

2021年5月31日、マフィアの凶悪犯、ジョヴァンニ・ブルスカが刑期を終えて釈放されました。

ブルスカは2016年と2017年に獄死したマフィアの大ボス、ベルナルド・プロヴェンツァーノとトト・リイナに続くコルレオーネ派のナンバー3とも目されます。

ブルスカが犯した殺人のうちもっとも知られているのは、反マフィアの旗手だったジョヴァンニ・ファルコーネ判事の爆殺。

パレルモ空港から市内に向かう判事の車を、遠隔装置の爆弾で吹き飛ばしたいわゆる「カパーチの虐殺」です。

また自らと同じマフィア内の敵への報復のために、相手の12歳の息子を誘拐して殺害し酸の中に遺体を投げ込んで溶かしました。

そうすることで遺族は子供を埋葬できずに苦しみが深まると考えたのです。

ブルスカは1996年に逮捕されました。そのとき取調官に「100人から200人を殺害した。だが正確な数字は分からない」と告白しています。

彼は終身刑になりましたが、後に変心していわゆるペンティート(悔悛し協力する者)となり、マフィアの内部情報を提供する代わりに大幅な減刑を受ける司法取引にも応じました。

ブルスカが25年の刑を終えて出所したことに対して、イタリア中には賛否両論が渦巻いています。

彼を釈放するべきではないという怒りの声が大半ですが、司法取引の条件が減刑なのだから仕方がない、という声も少なからずあります。

秘密結社であるマフィアには謎が多い。ブルスカのような大物が司法協力者となって情報をもたらす意義は小さくないのです。

ブルスカの手によって殺害されたファルコーネ判事の姉のマリアさんは「ブルスカの釈放には人として憤りを感じるが、司法協力者となったマフィアの罪人を減刑するのは、弟が望んだことでもあるので尊重するしかない」と語っています。

ブルスカのボスだった前述のリイナとプロヴェンツァーノは、マフィアの秘密をいっさい明かさないまま終身刑を受けて獄死しました。

ブルスカもその同じ道をたどることができましたが、司法に寝返りまた。

彼の告白は司法にとって重要なものだったとされます。同時にブルスカは全てを話してはいない、という否定的な意見もあります。

いずれにしても100人以上の人間を殺害した男が、終身刑を逃れて釈放されるのは異様です。

異様といえば、いかにもマフィアがからむ事案らしい面妖なことがあります。

ブルスカは獄中から彼の犠牲者の遺族に謝罪するビデオを公開しました。

ところがカメラに向かって話す彼の顔は覆面で覆われているのです。

彼の素顔は逮捕時にもその後にもいやというほどメディアその他で公開さています。いまさら顔を隠す意味がありません。

それにもかかわらずブルスカは、ビデオの中でセキュリティーのためにこうして覆面をしている、と述べます。

不思議はまだ続きます。

警官に囲まれて出所するブルスカは、左手で口のあたりを覆って顔を隠す仕草をしています。その絵が新聞の一面を飾っているのです。

一連の出来事が示唆しているのは、ブルスカがおそらく顔の整形手術を受けていることです。

マフィアから見れば彼は司法に寝返った裏切り者です。

ブルスカに恨みを抱く闇の世界の住民は多くいる、と容易に想像できます。

彼はマフィアの報復を避けるために警察の了解のもと、いやむしろ司法に強制されるような格好で整形手術を受けたと考えられます。

ブルスカは4年間の監視生活のあとで完全に自由になります。

その4年間はもちろん、その後も彼は常に警察の庇護を受けながら生きていくことになります。それが決まりです。

それでもマフィアの刺客の危険は付きまといます。しかもブルスカは自由人なのですだから、護衛官は人々にはそれとは分からない形で彼を守り続けるのでしょう。

ブルスカがひとりで行動することも増えるに違いない。だから顔の整形が役に立つ、ということではないかと思います。

しかし国家権力には慈悲などありません。

権力は将来、ブルスカを庇護する価値がない、と判断したときにはさっさと彼を見離すでしょう。

そればかりではなく権力は、整形のことも含めたブルスカに関する全ての情報を、彼の敵にリークしてしまうことも十分にあり得ると思います。

 

 

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