PK戦は選手と監督のタッグ・マッチ

2020サッカー欧州選手権では、イタリアがイングランドとのPK戦を制して優勝しました。

PK戦を偶然が支配するイベントと考える者がいるが、それは間違いだ、と筆者は前のエントリーで書きました。

そこでは主に選手に焦点をあてて論じました。

実はPK戦にはもうひとつの側面があります。そのこともPK戦にからむ偶然ではなく、戦いの結末の必然を物語っています。

PKを蹴る5人の選手を決めるのは、たいていの場合監督です。

監督のなくてはならない重要な資質のひとつに、選手の一人ひとりの心理やその総体としてのチームの心理状況を的確に読む能力があります。

監督は優れた心理士でなければ務まらないのです。

監督は大きなプレッシャーがかかるPK戦に際して、選手一人ひとりの心理的状況や空気を察知して、気持ちがより安定した者を選び出さなければなりません。

緊張する場面で腰が入っているのは選手個人の特質ですが、それを見抜くのは監督の力量です。その2つの強みが合わさってPKのキッカーが決まります。

より重要なのは選手の心理の様相を見抜く監督の能力。それは通常ゲーム中には、選手交代の時期や規模に託して試合の流れを変える手腕にもなります。

監督はそこでも卓越した心理士でなければなりません。

代表チームの監督は、各クラブの監督とは違って、いかに有能でも優れた「選手を作り出す」ことはできません。彼の最重要な仕事は、国内の各チームに存在する秀でた「選手を選択」することです。

選択して召集し、限られた時間内で彼らをまとめ、鍛え、自らの戦略に組み込みます。彼が選手と付き合う時間はとても短い。

ナショナルチームの監督は、その短い時間の中で選手の心理まで読む才幹を備えていなければなりません。厳しい職業です。

イタリアのマンチーニ監督は、あらゆる意味で有能な軍師であり心理士です。長く不調の底にいたイタリアチームを改造して、53年ぶりの欧州選手権制覇へと導いた器量は賞賛に値します。

欧州選手権の決勝戦では特に、彼は力量を発揮して通常戦と延長戦を戦い、最後にはPK戦でも手際を見せてついに勝利を収めました。

一方、敢えて若い選手をキッカーに選んで敗れたイングランドチームのサウスゲート監督は、「誰が何番目にPKを蹴るかを決めたのは私。従って敗れた責任は私にある」と潔く負けを認めました。

イタリアのマンチーニ監督も、もし負けていれば同じコメントを残したことでしょう。

2人の天晴れな監督の言葉を待つまでもなく、PK戦とは2チームが死力を尽くして戦う心理戦であり、偶然が支配するチャンスはほぼゼロと見なすべきサッカーの極意なのです。

 

 

 

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official siteなかそね則のイタリア通信

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