イタリアの「や、コンニチワ、またですね」」の政治危機が見える

マタレッラ大統領の任期が2月で終えるのを受けて、イタリア大統領選の投票が1月24日から始まります。

国家元首であるイタリア大統領は、上下両院議員と終身議員および地域代表者の投票によって選出されます。

投票は一日に2回づつ実施されます。3回目までの投票では3分の2以上の賛成が必要で、4回目以降は単純過半数を得た者が当選となります。

言うまでもなく1回目の投票で大統領が決まることもあります。しかし初回投票で結果が出るのは極めて珍しく、複数回投票になるのが普通です。

最多は23回目の投票まで行ったこともあります。むろんそうなれば何日も時間がかかります。

冒頭で「投票が1月24日から始まる」と不思議な言い方をしたのは、投票が何度も行われていつ終わるか分からない可能性があるからです。

イタリア共和国大統領は、普段は象徴的な存在で実権はほとんどありません。ところが政治危機のような非常時には議会を解散し、組閣要請を出し、総選挙を実施し、軍隊を指揮するなどの「非常時大権」を有します。

大権ですからそれらの行使には議会や内閣の承認は必要ありません。いわば国家の全権が大統領に集中する事態になります。

たとえば2018年の総選挙後にも大統領は「非常時大権」を行使しました。

政権合意を目指して政党間の調整役を務めると同時に、首班を指名して組閣要請を出しました。その時に誕生したのが第1次コンテ内閣です。

コンテ首相は当時、連立政権を組む五つ星運動と同盟の合意で首相候補となり、マタレッラ大統領が承認しました。

コンテ首相は以後、2021年1月に辞任するまで、世界最悪のコロナ地獄に陥ったイタリアを率いて指導力を発揮しました。

だが連立を組む小政党の反逆に遭って退陣しました。

その後はふたたびマタレッラ大統領が「非常時大権」を駆使して活躍。ほぼ全ての政党が参加する大連立のドラギ内閣が発足しました。

イタリア共和国は政治危機の中で大統領が議会と対峙したり、上下両院が全く同じ権限を持つなど、混乱を引き起こす原因にもなる政治システムを採用しています。

一見不可解な仕組みになっているのは、ムッソリーニとファシスト党に多大な権力が集中した過去の苦い体験を踏まえて、権力が一箇所に集中するのを防ごうとしているからです。

憲法によっていわゆる「対抗権力のバランス」が重視されているのです。

政治不安が訪れる際には大統領は、対立する政党や勢力の審判的な役割とともに、既述のように閣僚や首相の任命権を基に強い権限を発揮して、政治不安の解消に乗り出します。

政党また集団勢力は、大統領の権限に従って動くことが多いため、政治危機が収まることがしばしば見られます。

1月24日の選挙は、イタリアの政局が安定している中で行われる。極めて珍しいケースです。

政局が安定しているのは、ドラギ首相の求心力が強いからです。

ところがそのドラギ首相を降板させて大統領に推そうとする者がいます。

彼が大統領になれば、首相の座が空きます。そこを狙う政治家や政治勢力が多々あるのです。

それが連立政権内にいる五つ星運動の一部であり、連立の外にいて世論調査上は国民の支持を最も多く集めている、極右政党のイタリアの同胞です。

統計ではイタリアの同胞に先を越されたものの、2番目の人気を維持している同盟のサルビーニ党首も首相職への執着が強い。

彼は常にその情動を隠さずに来ましたが、ここにきて世論調査で友党のイタリアの同胞に先行されたために、ドラギ首相を大統領に推す論を引っ込めて、あいまいな発言に終始するようになりました。

そうはいうものの、彼が首相職に強い野心を持っているのは周知の事実です。

五つ星運動のディマイオ氏、イタリアの同胞のメローニ氏、そしていま触れた同盟のサルビーニ氏。この3者がドラギ首相を大統領に祭り上げて自らが首相になるリビドーを隠しています。

だが3者は右と左のポピュリストです。五つ星運動が極左のポピュリスト。イタリアの同胞と同盟は大衆迎合的な極右勢力です。

尋常な右と左の政党であり主張であれば問題ありませんが、「極」という枕詞が付く政党の指導者である彼らが首相になれば、イタリアの迷走は目も当てられないものになるでしょう。

今のイタリアに最も望まれるのは、ドラギ首相がしばらく政権を担うことです。それはマタレッラ大統領の再選によって支えられればもっと良い。

だがマタレッラ大統領は今のところは続投を否定しています。

大統領候補には、ドラギ首相のほかにベルルスコーニ元首相やアマート元首相、またマルタ・カルタビア法相の名などが取りざたされています。

カルタビア法相が選出されれば、イタリア初の女性大統領となります。

大統領には、最低でも清潔感のある個性が求められます。その意味では、いま名を挙げた候補者のうち、多くの醜聞にまみれたベルルスコーニ元首相は論外でしょう。

彼以外のベテランが国家元首の大統領職に就き、各方面からの支持を集めるドラギ首相が、コロナで痛めつけられているイタリア共和国の政治経済の舵をもうしばらく取ることが理想です。

だが言うまでもなく、魑魅魍魎が跋扈する政界では、この先何が起こるかむろん全く分かりません。

 

 

 

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official siteなかそね則のイタリア通信

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