2月26日、筆者はこのブログに
“結局、アメリカが先導する民主主義陣営は、ウクライナがロシアに自在に蹂躙されるままに、哀れなウクライナを見捨てることでしょう。
ウクライナを見捨てることでNATO加盟国を守り、自由主義世界全体の経済権益も守るのです。
そうやって海千山千の逆賊プーチン大統領はますます強くなり、中国のラスボス習近平主席は、香港を破壊した勢いで台湾を踏みにじり、尖閣を掻っさらって沖縄を強奪し、さらに九州へと魔手を伸ばしていく可能性がないとは誰にも言えません。
NATO もその他の世界の自由主義勢力も、そして尖閣と沖縄と九州を含む日本国全体も、ロシアの蛮行を指をくわえて見過ごせば、取り返しのつかない事態が連鎖的に起きるかもしれないことを、明確に意識しつづけるべきです”
と書きました。
それから10日後の今日、残念ながら筆者はその思いをあらためて強くした、と言わなければなりません。
2月24日のウクライナへの侵攻開始以降、ロシア軍は大方の予想に反して進軍にとまどい、停滞し、混乱さえしていると見られてきました。
それはプーチン大統領が、多くのことを見誤り、計算違いを犯し、判断をし損ねたからではないか。
具体的には自軍の力量を過大評価したり、逆にウクライナ軍の力を過小評価した。ウクライナ国民の抵抗も軽視した可能性がある、ということなど。
そして筆者は、プーチン大統領が犯した少なくない数の失策の中でも最大のミスは、アメリカが主導する西側世界が反ロシアで一気に結束することはない、と予測したことではないかと考えました。
自由と民主主義また多様性を重視する西側世界は、同じ価値観を共有することで各国が友好親和的な関係を保っています。だが、まさにその共通の価値観ゆえに、時として足並みが乱れます。
各国の足並みの乱れも自由主義社会のいわば美点なのです。なぜなら足並みが乱れるのは、それが全体主義体制下での出来事ではないことの証しだからです。
西側は2014年、例によって各国の足並みが乱れたために、ロシアによるクリミア半島の併合という蛮行を阻止できませんでした。
当時はドイツやイタリアなどがロシアへの強烈な経済制裁に難色を示しました。両国は、そして特にドイツは、エネルギーを大きくロシアに依存しているからです。
自由主義陣営はしばしばそうした混乱に陥ります。繰り返しますが、そこがまさに自由な民主主義社会だからです。
プーチン大統領は、足並みの乱れからくる西側世界の弱さを見抜いていて、今回の悪行にも自信を持って臨みました。
ところが彼の思惑とは裏腹に、自由主義陣営はただちに結束して、最大の難関とされたSWIFTからのロシアの締め出しなどを即決しました。
従来はクリミア併合時に見られたように、エネルギーをロシアに大きく依存しているドイツが徹底して反対するため、発動ができないのが習いでした。
だが今回はドイツは、自国の痛みを覚悟でロシアへの制裁措置を受け入れました。ドイツに次いで多くのエネルギーをロシアに依存しているイタリアも、迷うことなく賛成しました。
そうやって西側は一致団結しました。プーチン大統領はそのことにおどろき、進軍はしたものの挫折したロシア軍の弱さに苛立ち、西側をけん制しようとして-そのこと自体があらたな失策であることに気づかないまま-「核兵器を使用する」とまで示唆して、世界のさらなる反感を買いました。
彼は錯乱しているという憶測さえ生まれました。それは誇張が過ぎるとしても、少なくとも彼は冷静さを失い、ノーと言える側近が周りにいない独裁者の常で、ますます暴走する可能性が高まっていると見られました。
ところが3月3日、プーチン大統領は「自ら申し出て」フランスのマクロン大統領と電話会談をしました。
彼はそこで「何があってもウクライナでの軍事作戦を完遂する」と主張。軍事作戦は計画通り進んでおり、ウクライナが非軍事化などの条件を受け入れなければ作戦を続けると明言しました。
それに対してマクロン大統領は、あなたは嘘をついている。ロシアはこの作戦によって世界から孤立し、制裁によって経済破綻に陥る。高いコストを支払うことになる、と「型通りの」反論をしました。
「型通りの」反論とは、第3次世界大戦を恐れてロシアとの軍事衝突を避けようとする自由主義陣営の指導者は誰もが、今この時はマクロン大統領と同じ言葉で反論するしかないからです。
マクロン大統領とプーチン大統領は親しい仲です。彼らの電話会談は1時間半にも及び、お互いに言いたいことを言い合ったという印象があります。
2人の指導者の論争が端的に示しているのは-マクロン大統領ではなくプーチン大統領自身が電話会談を申し入れた時点で明らかになっていたように-プーチン大統領は錯乱などしていなくて、マクロン大統領すなわち自由主義陣営は、プーチン大統領のウクライナ侵略を止められない、という厳しい現実でした。
つまりロシアは、強力な経済制裁によって将来は弱体化する可能性が高いものの、プーチン大統領の思惑通り一旦はウクライナ全土を支配下に置く。最低でも国土を分割して一部を自らの属国にしてしまう。
言葉を替えれば、西側はやはりウクライナを見捨てるのです。
今この時の状況から判断すれば、短期的にはそれがウクライナ危機の行く末だと考えられます。
だが長期的には-民主主義体制側が大同団結してロシアへの強力な経済制裁を続けるならば、という条件付きですが-プーチン大統領が敗北する可能性のほうがはるかに高いと思います。
SWIFT事案ほかの、一致協力した自由主義陣営のロシアへの経済制裁は、それほどに強力なものです。
NATO構成国と、その味方である日本を含む世界の多くの国々は、ロシアの横暴を渋々認めざるを得なくなります。それを見て、中国が台湾への侵攻を開始するかもしれません。日本を巻き込む危険と共に。
ウクライナを侵略したロシアの論理と、台湾を狙う中国の行動規範は違う、というもっともらしい理由を持ち出して、その可能性を完全否定する人々もいます。
だがまともな理論や国際法など無視して、やりたい放題をやるのがロシアであり中国です。
クリミアやウクライナ、香港やチベットほかの歴史、また現実を見ればそれは明らかです。それらのならず者国家には、残念ながら議論のための「まともな議論」など全く役に立ちません。
可能性は低いが別のシナリオも考えられます。
自由主義陣営の支援を受けてウクライナが激しい抵抗を続け戦闘が長引いた場合、プーチン大統領には国内から強力な逆風が吹きつける可能性があります。
西側の巨大な制裁がロシア経済を破壊して、疲弊した国民の怒りがプーチン大統領に向けられるのです。
そうなった暁には、プーチン大統領は単に失脚するのではなく、ルーマニアのチャウチェスク、リビアのカダフィ、イラクのサダム・フセインほかの独裁者と同じ悲惨な最期を迎えることになるでしょう。
たとえそうはならなくても、プーチン大統領には勝利は舞い込みません。ウクライナ支配と引き換えに、この先彼は世界の怒りと侮蔑にさらされて生きていくことになります。
だが、最後になりましたが、考えることさえ憚られるもっと恐ろしい、もっと不快なシナリオももちろんあります。
今後の展開のよっては、プーチン大統領が行き詰まってしまう可能性があります。そのとき彼は事態を有利に導こうとして核のボタンを押す。
あり得ないとは断言できません。
彼はあり得ないと考えられたウクライナへの侵攻を実践した、冷徹な意志と狂気を秘めた怪異なのです。
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