ロシアがウクライナへの激しい攻撃を続ける一方で、停戦へ向けての交渉や各国の仲介協議また外交活動も活発に行われています。
印象としては、プーチン大統領がコワモテの独裁者を実演しつつ、ウクライナ潰しがうまくいかないことへの焦りから、停戦も模索している雰囲気です。
だがその間もプーチン大統領は、ウクライナで無垢な人々を殺戮し続けている、というのが2022年3月28日現在のウクライナ戦争の実相であるように思います。
そんな中でNATOの会議に出席したバイデン大統領が、彼の得意な絶好調失言をやらかして米政権幹部や欧州首脳らを困惑させました。
バイデン大統領は帰国直前、ポーランドのワルシャワで「プーチンはロシア大統領の地位にとどまるべきではない」という趣旨の発言をしました。
バイデン大統領はあらかじめ用意されていた原稿を読み終えたあとに、彼自身の思いつきでそう発言して演説を締めくくりました。
ありていに言えばバイデン大統領は、「プーチンを権力の座から引きずりおろす」と宣言するにも等しい発言をしたのです。当然のようにその言葉は激震を招きました。
ブリンケン国務長官をはじめとするバイデン政権の幹部やスタッフは、大統領はロシアの政権の転覆を意図して発言したのではない、と火消しに躍起になりました。
またマクロン大統領をはじめとする欧州首脳も発言におどろいて、バイデン発言を批判。
マクロン大統領は「停戦合意を追求するなら、言葉でもアクションでもエスカレートしないようにするべき」とやんわりと米大統領に釘を刺しました。
マクロン大統領は戦争勃発以降、3月22日までにプーチン大統領と合計8回、またウクライナのゼレンスキー大統領とも20回近い会談を行っています。停戦に向けて懸命に動いているのです。
バイデン大統領の失言癖は今に始まったことではありません。彼は副大統領時代にも多くの失態を演じ、大統領になってからもその性癖は変わっていません。
バイデン大統領はロシアがウクライナを蹂躙してこの方、プーチン大統領を「凶漢」「人殺しの独裁者」「戦争犯罪者」などと公に罵倒してきました。それらの表現も失言と見なす人々が多くいます。
今回の発言も彼の失言と捉えられています。戦争の激化を避け停戦を模索する西側陣営のリーダーの発言としては、それは失言以外のなにものでもない、と筆者も思います。
なぜならその言葉が外交慣例にそむき、ロシアを刺激し、なによりもプーチン大統領に絶好のプロパガンダの機会を与えてしまう可能性があるからです。
プーチン大統領はその言葉尻をとらえて、大義の全くないウクライナへの侵略が、彼の政権を転覆させようと企む西側への対抗手段だ、などとも強弁しかねません。
バイデン大統領の勇み足は従って糾弾されるべきものです。
だが同時に、人間としてのバイデン大統領の行為は賞賛されるべきものだとも筆者は思います。
「プーチンを権力の座から引きずり下ろせ」という思いは、プーチン大統領自身とその取り巻き、また世界中のトランプ主義者及び排外差別主義者以外の誰もが、今このときに胸に抱いている願いではないでしょうか。
感情移入が激しいとされるバイデン大統領は、ウクライナを逃れてポーランドほかの国々に避難している多くの子供やその母親たち、また破壊されたウクライナの惨状を間近に見、感じて、人としての憤りに我を忘れたところがあるのでしょう。
彼の憤懣もまた世界中のほとんどの人々が共有する感情です。
バイデン大統領はかつて、ロシアが蛮行に及ぶ予兆を知った時に、小規模の侵攻なら制裁しない、といつものボケをかましました。
さらにロシアがウクライナを襲いかかると、メリカは軍事介入をしない、と言わぬが花の真実を強調しまくるミスなども犯しました。
彼はそこでは、「いかなる侵攻も侵攻であり決して許さない」と表明し、「アメリカは軍事介入をする覚悟がある」と示唆して、プーチン大統領をけん制するべきだったのです。
それらの失態は、彼が老害大統領と陰口を叩かれても仕方がないミスです。
だがプーチン大統領と彼の周りの権力を、歯に衣を着せずに糾弾する言葉は、人々の思いをストレートに代弁している分、失言とばかりは言えないのではないでしょうか。
少なくともプーチン大統領の悪を指摘することで、反プーチン世論を喚起し彼を追い詰めて停戦へと向かわせる効果がないとは言えません。
その一方で、追い詰められたプーチン大統領がさらに凶暴になる、という逆効果を招く可能性ももちろん否定はできないのですが。
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