まだ希望的観測の類いですが、コロナが終息しそうだからと、日本帰国に備えてお土産を考え始めました。
するとそこにウクライナ危機が勃発して、気分が元の重さに逆戻りしてしまいました。
コロナも戦争もなく、欧州もむろん日本も平和だったころ、筆者は新聞に次のような趣旨のコラムを書きました。
イタリアみやげ
かさばらない、腐らない、気どらない。それでいてイタリア的、とういうのが僕の日本へのおみやげ選択の条件である。例えばとてもイタリア的なものであるワインはかさばる。また美味いチーズや生ハムは腐りやすい。デザイン系の装飾品やファッションなどは気どる。
試行錯誤を経てたどりついたのがサラミである。
サラミはかさばらず、腐らず、気どらず、しかも大いにイタリア的である。イタリアの食の本筋である肉のうま味が凝縮されていて、そのうえ優れた保存食という重大な一面もある。ところが、サラミは都会の人々には好まれるものの、田舎ではあまり人気がない。生ハム等に比べると香りや味に特徴があって、慣れない者には食べづらい印象もある。そのせいかどうか、たとえば東京あたりの友人知己には喜ばれるが、地方では人気がない。
僕の故郷の南の島々では、豚肉がよく食べられるのに豚肉が素材のサラミはもっと人気がない。地方の人は日本でもイタリアでも新しい食べ物を受けつけない傾向がある。いわゆる田舎者の保守体質というものであろう。
生まれも根っこも大いなる田舎者である僕は、白状すると、イタリアに来て丸2年間ほぼ毎日食卓に出るサラミを口にできなかった。2年後に思い切って食べてみた。
以来、今ではサラミや生ハムのない食事は考えもつかない。
僕は自分が体験した喜びを親しい人々に味わってもらおうと、いつもサラミを島に持ち帰っている。だが、あまり歓迎されないおみやげは贈る自分もあまり喜ばず、正直少し疲れを覚えないでもない。
日本はその後、、口蹄疫、ASF(アフリカ豚熱)、高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の侵入を防ぐため、という理由で海外からの肉や肉製品の個人持込みを全面禁止しまた。
筆者のイタリア土産の主力打者であるサラミももちろん持ち込み禁止になりました。
イタリアは衛生管理の厳しい先進国です。言うまでもなくサラミや生ハムほかの製品は、峻烈な生産工程を経て店頭に出ます。
しかもイタリアの加工肉の種類の豊富と品質は、日本が逆立ちしてもかなわない。またその安全性はまぎれもなく世界のトップクラスです。
肉製品だけに関して言えば、あるいは日本のそれよりも安全であり安心できるとさえ感じます。
なので筆者は、サラミの日本への持ち込み禁止措置なんて一時的な対策に過ぎない。すぐに解除になると考えました。
ところがどっこい2019年、禁止措置は緩和どころか逆に強化されて、海外からの畜産物の持込みには3年以下の懲役、または最高100万円の罰金が科されることになりました。
しかもそれだけでは終わりませんでした。
翌2020年7月には家畜伝染病予防法が改正され、懲役年数は同じですが罰金は最高300万円にまで引き上げられたのです。
正直、目が点になりました。鎖国メンタリティーの日本の面目躍如、と思いました。
コロナ禍中での外国人締め出し措置にも似た、日本独特の異様な政策だと今も思います。
趣旨は分かるのです。島国の利点を活かした厳格なやり方で、合理的に行えば感心できます。
だが、日本人と外国人の区別をしないウイルスをつかまえて、日本人の入国はOKだが外国人はNGというのでは、排外差別主義的な政策だと批判されても仕方がありません。
肉製品の全面持込み禁止措置は、いうまでもなくコロナ政策と同じではありません。だが、コロナ対策に似たいわばヒステリックな思い込みが見え見えでうっとうしい。
あえてイタリアと日本の間柄だけに限って言います。
イタリアの加工肉の最高傑作である生ハムやそれに匹敵するサラミの日本への持込み禁止は、例えばイタリア政府が「イタリアでは寿司や刺身の消費を厳禁する」と言い張ることがあるとしたなら、それと同じ程度に愚劣きわまりない政策です。
official site:なかそね則のイタリア通信