エーゲ海の島ヤギ料理~ナクソス・パロス・ミコノス編 

2022年6月のギリシャ旅行でもヤギ・羊肉料理の食べ歩きました。

一週間づつ滞在したパロス島とナクソス島では、いかにもギリシャの島々らしい美味しいヤギ・羊肉料理に出会いました。

また乗り換え地として旅の終わりに短く滞在したミコノス島では、あっと驚く子羊のモツ料理にも遭遇しました。

子羊の内臓を腸に詰め込んで炭火でじっくりと炙り焼いたもので、レシピも味も強烈な印象を筆者に与えました。

ミコノス島で出会った激うまレシピを別にすれば、今回旅ではナクソス島のレストランの子羊の丸焼きがベストの味でした。

そのレストランは滞在した家とビーチの間にありました。歩いて1分もかかりません。なにしろ家からビーチまではほんの50~60メートルしかなかったのです。

地元の食材を使ったバラエティに富む料理を提供する店でした。

キクラデス諸島で最も大きいナクソス島は、食料の自給自足ができるほどに豊穣な島です。畜産も盛んで耕作地も山も多い。

店では毎日島産の子豚の丸焼きを提供し、週末には子羊の丸焼きを目玉にしていました。豚の丸焼きは絶妙の味がし、子羊のそれは食べ歩いた限りの島の全店の味を圧倒していました。

ヤギ・羊肉膳は、焼くよりも煮物の方が味に深みがありバラエティにも富む、というのが筆者の意見です。そして煮物は各店の秘伝のタレやスープで煮込まれるのが普通です。

タレやスープの味の違いの分だけ煮込みの数がある。つまり無限ということです。

一方、肉を焼く場合には味付けは塩と胡椒が基本です。下味を付けたりバターやタレを塗りこむ手法もありますが、そのやり方では素材の純度が殺がれて目覚しい味にはならないようです。

少なくとも筆者が食べた焼きレシピの最上のものは、これまでは全て塩焼きばかりです。胡椒にバラエティがありハーブなども使いますが、基本は飽くまでも塩味です。

頻繁に通ったナクソス島の近場の店は、客からよく見える店内の一角に丸焼き用の釜をおいて、シェフが客の視線を受けながら調理をします。見た目にも食欲をそそる演出で繁盛していました。

パフォーマンスで客を楽しませる店は、見せ物にエネルギーを費やす分調理の力が削がれて味が落ちたりします。

しかしその店には失策がありません。無口で無骨な料理人は、人目などどこ吹く風というふうで肉焼きに集中していました。子豚の丸焼きも子羊肉と同じ手法で調理していてそちらの味も秀逸でした。

ナクソス島では子羊肉の煮物も食べました。ハズレはひとつもないが、家の隣の店の丸焼きにかなう味はありませんでした。同店は独自のソース煮も提供していましたが、それも美味かった。

片やパロス島では、焼きレシピには一度も行き合いませんでした。島内産のヤギ・子羊肉が豊富なナクソス島とは違って、丸焼きにする素材が少ないということもあるのかもしれません。

パロス島で印象深かったレシピは3点。

ひとつは漁港脇の店で食べた子羊肉のレモンソース煮込み。これは3年前にクレタ島で食べた子ヤギの煮込みによく似ていました。

味はきわめて良かったのですが、クレタ島の子ヤギのレモンソース煮込みは、これまでに筆者が食べた中では1、2を争う味の一品です。さすがにそれには及びませんでした。

肉の味もやや劣りましたが、それを乗せているパスタがいけなかった。イタリア以外の国でよく見る茹で過ぎのたるいパスタで、筆者は一口食べて文字通り匙を投げました。

ギリシャはイタリアのいわば隣国でパスタ人気も高いのですが、味は最悪の部類に入ります。もっと不運だったのは、パスタの味が肉と全く調和していなかったことです。

肉とパスタがかみ合っていないのは、料理人が自分で食べてみればすぐに気がつくはずなのになぜ?といぶかるほど杜撰でした。肉の味が悪くなかっただけにますます不思議に感じました。

それに比べてクレタ島のレモンソース煮込みには、白飯が添えられていてヤギ肉との相性が抜群に良かったのです。

2つ目は、うっそうと茂る木々が濃い影を作っている海際の食堂のエピソード。影が一段と濃い大木の下のテーブル席に座りました。するとすぐに年寄りの女性ウエイターが構ってくれました。

メニューに目を通しながら、潮気が皺に染み込んだような味わい深い顔のおばばウエイターとよもやま話をしました。店の雰囲気の良さをほめ名物料理を聞いたりしました。

テーブルから見える厨房で老人が炭火の世話をしていました。おばばウエイターにあの人がシェフかと聞くと、私がシェフで彼は私の夫、調理のアシスタント、と笑いました。つまりおばばはオーナーシェフだったのです。

オーナーシェフと敢えて言えば、瀟洒な店を想像されそうですが、大木も茂る広い庭付きの民家をレストランに改造した、という印象の店で、むしろ素朴でアットホームな雰囲気が強い。

筆者は店と主人への敬意、また親しみを込めて、オーナーシェフをおばばシェフと呼ぶことに決めました。

「厨房に入っていなくてもいいのか」と給仕をするおばばシェフに聞くと、一緒に来なさいと店の中に誘われました。

追いて行くと、厨房の前のガラス棚の中に既に調理された膳部と仕込みの終わった食材が整然と並べられていました。しっかり準備をしておいて、できる限り客との接触も楽しむのだ、とおばばシェフは流暢な英語で話しました。

シェフの得意料理だというムサカと肉団子、天ぷら風の揚げ物の3品に加えて、僕の目指す子羊の煮込みも頼みまし。

壷風の食器で供された子羊の煮込みは上等の味でした。先に頼んだ既述の3品も、おばばシェフ独自の工夫がてんこ盛りになっていて非常に美味でした。

3つ目はおばばの店の翌日。島では最も山深いレストランに向かった。そこでの興味はひたすら子羊料理でした。山深い店には美味いヤギ・羊肉料理がある。これまでの経験がそう教えていました。

山の集落の入り口付近に子羊膳を提供している店がありました。早速頼みました。子羊のトマトソース煮込みに焼きジャガイモが添えられた一品が出てきました。

ここに書くくらいですから味が良かったのは言うまでもありません。だが正直に言えば強烈に印象に残るほどのものではなく、普通以上に美味しい、というふうでした。

こうして見ると、今回旅ではミコノス島で出会った子羊モツの炙り焼きがやはり圧巻でした。その次に印象に残ったのが、ナクソス島の海際の、家から歩いてすぐの店の子羊の丸焼きです。

旅ごとにまとめる、筆者の独断と偏見によるヤギ・羊肉レシピのランク付けの1位と2位が、ソース煮込みではなく、モツ焼きと子羊の丸焼きという「焼きレシピ」に収まったのは珍しい結果でした。

 

 

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なかそね則のイタリア通信

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