リシ・スナク氏が英国の新首相に就任しました
ジョンソン元首相、トラス前首相に続く3人目の負け犬首相です。前代未聞の事態が次々に起きる英国は、あるいは存続の危機にあるのではないか、と本気で懸念します。
ジョンソン元首相は追い詰められて辞任しました。トラス前首相は失脚しました。そしてスナク新首相は保守党の党首選でトラス前首相に敗れたばかり。彼もやはり負け犬なのです。
負け犬が3連続で首相を務める英国はきわめて異様に見えます。
何よりも先ずそのことを指摘しておきたいと思います。
負け犬から突然、タナボタで英国最強の権力者になった、スナク首相の就任演説をBBCの実況放送で聴きました。
辞職したばかりのトラス前首相のミスをさりげなく、だが明確に指摘しながら、そのミスを是正し英国経済を立て直す、と宣言する様子は傲岸なふうではなく、むしろ頼もしいものでした。
しかしそれはまだ単なる彼の言葉に過ぎません。
コロナパンデミックに続くロシアのウクライナへの侵攻によって、英国に限らず世界中の経済は危機にさらされています。巨大な危難は英国一国だけで解決できる問題ではないと見えます。
世界経済は複雑に絡み合い利害を交錯させながら回っています。
有名金融関連企業で働いた後、ジョンソン政権で財務大臣も務めたスナク首相は、実体経済にも詳しいに違いありません。それでも単独で英国経済を立て直せるかどうかは未知数です。
経済政策でコケれば彼もまた早期退陣に追い込まれる可能性が高い。そうなるとスナク氏は再び落伍者となって、負け犬指導者が4代続く事態になり英国存続の危機はいよいよ深化するばかりです。
閑話休題
スナク首相は経済政策を成功させるか否かに関わらず、既に歴史に残る一大事業を成し遂げました。筆者の目にはそちらのほうがはるかに重要トピックと映ります。
いうまでもなくスナク首相が、英国初の非白人の首班、という事実です。
彼は宗教もキリスト教ではなくヒンドゥー教に帰依する正真正銘のインド系イギリス人です。人種差別が根深いイギリスでは、画期的な出来事、といっても過言ではありません。
2009年、世界はアメリカ初の黒人大統領バラク・オバマの誕生に沸きました。それは歴史の転換点となる大きな出来事でした。
だが同時にそれは、公民権運動が激しく且つ「人種差別が世界で最も少ない国アメリカ」に、いつかは起きる僥倖と予見できました。
アメリカが世界で最も人種差別の強い国、というのは錯覚です。アメリカは逆に地球上でもっとも人種差別が少ない国です。
これは皮肉や言葉の遊びではありません。奇を衒(てら)おうとしているのでもありません。これまで多くの国に住み仕事をし旅も見聞もしてきた、筆者自身の実体験から導き出した結論です。
米国の人種差別が世界で一番ひどいように見えるのは、米国民が人種差別と激しく闘っているからです。問題を隠さずに話し合い、悩み、解決しようと努力をしているからです。
断固として差別に立ち向かう彼らの姿は、日々ニュースになって世界中を駆け巡り非常に目立ちます。そのためにあたかも米国が人種差別の巣窟のように見えます。
だがそうではありません。自由と平等と機会の均等を求めて人種差別と闘い、ひたすら前進しようと努力しているのがアメリカという国です。
長い苦しい闘争の末に勝ち取った、米国の進歩と希望の象徴が、黒人のバラック・オバマ大統領の誕生だったことは言うまでもありません。
物事を隠さず直截に扱う傾向が強いアメリカ社会に比べると、英国社会は少し陰険です。人々は遠回しに物を言い、扱います。言葉を替えれば大人のずるさに満ちています。
人種差別でさえしばしば婉曲になされます。そのため差別の実態が米国ほどには見えやすくありません。微妙なタッチで進行するのが英国の人種差別です。
差別があからさまには見えにくい分、それの解消へ向けての動きは鈍ります。だが人種差別そのものの強さは米国に勝るとも劣りません。
それはここイタリアを含む欧州の全ての国に当てはまる真実です。
その意味では、アメリカに遅れること10年少々で英国に非白人のスナク首相が誕生したのは、あるいはオバマ大統領の出現以上に大きな歴史的な事件かもしれません。
筆者はスナク首相と同じアジア人として、彼の出世を心から喜びます。
その上でここでは、政治的存在としての彼を客観的に批評しようと試みています。
スナク首相は莫大な資産家でイギリスの支配階級が多く所属する保守党員です。彼はBrexit推進派でもあります。
個人的に筆者は、彼がBrexitを主導した1人である点に不快感を持ちます。Brexitは徹頭徹尾NGだと考えるからです。
白人支配の欧州に生きるアジア人でありながら、まるで排外差別主義のナショナリストのような彼の境遇と経歴と思想はひどく気になります。
ジョンソン首相の派手さとパフォーマンス好きと傲慢さはないものの、彼の正体は「褐色のボリス・ジョンソン」という印象です。
それゆえ筆者は英国の、そして欧州の、ひいては世界に好影響を与えるであろう指導者としての彼にはあまり期待しません。
期待するのはむしろ彼が、ジョンソン前首相と同様に「英国解体」をもたらすかもしれない男であってほしいということです。
つまりスナク首相がイギリスにとっては悪夢の、欧州にとっては都合の良い、従って世界の民主主義にとっても僥倖以外の何ものでもない、英連合王国の解体に資する動きをしてくれることです。
official site:なかそね則のイタリア通信