地中海のカモメがつぶやいた

昨年に続き地中海のサルデーニャ島でひと足先にバカンスを過ごしました。6月の地中海の気温は高く、だが風は涼しく空気は乾いてさわやかでした。

日本語のイメージにある地中海は、西のイベリア半島から東のトルコ・アナトリア半島を経て南のアフリカ大陸に囲まれた、中央にイタリア半島とバルカン半島南端のギリシャが突き出ている海、とでも説明できるでしょうか。

日本語ではひとくちに「地中海」と言って済ませることも多いのですが、実はそれは場所によって呼び名の違う幾つかの海域から成り立っていて、イタリア語を含む欧州各国語で言い表される地中海も、もっと複雑なコンセプトを持つ言葉です。

地中海にはイタリア半島から見ると、西にバレアス海とアルボラン海があり、さらにリグリア海があります。東にはアドリア海があって、それは南のイオニア海へと伸びていきます。

イタリア半島とギリシャの間のイオニア海は、ギリシャ本土を隔てて東のエーゲ海と合流し、トルコのマルマラ海にまで連なります。それら全てを合わせた広大な海は、ジブラルタル海峡を通って大西洋にあいまみえます。

地中海の日差しは、北のリグリア海やアドリア海でも既に白くきらめき、目に痛いくらいにまぶしい。白い陽光は海原を南下するほどにいよいよ輝きを増し、乾ききって美しくなり、ギリシャの島々がちりばめられたイオニア海やエーゲ海で頂点に達します。

乾いた島々の上には、雲ひとつ浮かばない高い真っ青な空があります。夏の間はほとんど雨は降らず、来る日も来る日も抜けるような青空が広がっています。

さて、エーゲ海を起点に西に動くとギリシャ半島があり、イオニア海を経てイタリア半島に至ります。その西に広がるシチリア島を南端とする海がティレニア海です。

地中海では西よりも東の方が気温が高くより乾燥しています。そして筆者が2年連続でバカンスを過ごしたサルデーニャ島は、地中海のうちでも西方に当たるティレニア海にあり、一方でギリシャの島々の多くは東方のエーゲ海に浮かんでいます。

サルデーニャ島よりもさらに気温が高く空気も乾いているギリシャの島々では、目に映るものの全てが透明感を帯びていて、その分だけ海の青とビーチの白色が際立つように見えます。

ギリシャの碧海の青は、乾いた空気の上に広がる空の青につながって融合し一つになり、碧空の宇宙となります。そこには夏の間、連日、文字通り「雲ひとつない」時間が多く過ぎます。

カモメが強風に乗って凄まじいスピードで真っ青な空間を飛翔します。それはあたかも空の青を引き裂いて走る白光のようです。

サルデーニャ島とギリシャの島々の空と海とビーチの空気感を敢えて比べて見れば、エーゲ海域をはじめとするギリシャの方がはるかに魅力的です。

サルデーニャ島の海やビーチは言うまでもなく素晴らしい。またサルデーニャ島の海上にもカモメたちは舞い、疾駆します。しかし白い閃光のような軌跡を残す凄烈な飛翔は見られません。

上空に吹く風が弱いためにカモメの飛行速度が鈍く、また空にはところどころに雲が浮かんでいて、青一色を引き裂くような白い軌跡は、雲の白に呑み込まれて鮮烈を失うのです。

そうした光景やイメージに、それ自体は十分以上に乾燥しているものの、ギリシャに比較すると湿り気を帯びているサルデーニャ島の環境の「空気感」が加わります。

それらのかすかな違いが重なって、どこまでもギリシャを思う者の心に、サルデーニャ島の「物足りなさ」感がわき起こります。それは超一級のバカンス地であるサルデーニャ島にとっては、少し理不尽な物思いといわなければなりませんが。

 

 

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