パンデミックよりもパンデミックなイタリア・レンツィ元首相 

マッテオ・レンツィ元首相が、支持率3%以下の自身の極小政党「Italia Viva」を連立政権から引き離しました。それによってコンテ内閣は一気に崩壊の危機にさらされました。

このままコンテ政権が倒れるなら、レンツィ元首相は進行中の新型コロナパンデミックよりも悪質なイタリアのパンデミックとして、歴史に名を刻むことになるかもしれません。

レンツィ元首相の反乱の動機は、EU(欧州連合)からイタリアに贈られる莫大な新型コロナ復興資金の使い道に対する不満。

いろいろもっともらしい言い分がありますが、結局彼の真意を翻訳すると

⇒【俺にも分け前を寄越せ】あたりです。

レンツィ元首相は、若くしてイタリア政界にデビュー。彗星の勢いで首相にまで上り詰めました。頭の回転が速く弁舌が得意なところが新鮮に見えました。

ほどなくして、回転の速い頭はジコチューな発想をもたらすだけの機能に過ぎず、能弁は巧言令色以外の何ものでもないことが判明。

それらの残念な能力はさらに悪いことに、彼に傲岸という風体も付け加えました。

筆者はかつて彼を評価し将来に期待もしました。多くの不誠意で老体の政治家が跳梁跋扈するイタリアでは、若いという事実だけでも貴重に見えました。

レンツィ元首相はEU(欧州連合)信奉者でもあります。EUは欧州の国々の融和と、その結果としての経済的メリットの顕現という意味でも重要です。

さらに独裁勢力の中国やロシア、また狂犬的な米トランプ主義とそれに連なる政権等に対抗する総合力としても見逃せません。

加えてEUは―少なくない問題を抱えつつも―これまでのところは究極の「戦争回避装置」という重要な役割も十分に果たしています。筆者はEUを強く支持しますが、レンツィ元首相には失望しか感じません。

レンツィ元首相は2016年12月の憲法改正を問う国民投票で、「私を取るか、私を失うか」という尊大なキャッチフレーズをかかげて戦って大敗。権力の座から引き摺り下ろされました。

彼はそれでも懲りず、民主党の党首になってからも、いかにも彼らしいさまざまな権謀術数を展開。陰湿な動きはイタリア政局を揺らし続け、彼は「壊し屋」と異名されました。

「壊し屋」は政界の多くのシステムや関係やルールを壊し続け、ついには彼自身が所属する民主党さえも壊しました。そうやって追随する少数の国会議員を率いて、極小政党「Italia Viva」を結成しました。

レンツィ元首相は今回、その極小政党「Italia Viva」を道具にして、存在意義を見せたい、落ち目の党勢を拡大したい、などの強い我欲に駆られ「俺の言うことを聞かなければ連立の枠組みを抜ける」とコンテ首相を脅しました。

そして脅しが効かないことを悟ると、すぐさま自らも寄って立つコンテ連立政権を「壊し」にかかったのです。そこにはレンツィ氏らしい複雑狡猾な駆け引きが透けて見えます。

イタリアは依然としてコロナ危機のまっただ中にあります。そして危機を乗り越えるにはジコチューな主張が多い従来の政治家ではなく、敵を作らずバランス感覚に優れ且つ誠実なコンテ首相が最適です。

そのことは昨年3月から5月にかけてのコロナ地獄のまっただ中で十分以上に証明されました。

大学教授から突然内閣首班に抜擢されたコンテ首相は、最初の頃こそ周囲の政治家連の操り人形と批判されました。だが間もなく彼は有能なリーダーであることが明らかになっていきました。

百戦錬磨の既成政治家をうまくかわし、また別のときには彼らを適切にまとめて政権を運営しました。そのコンテ首相の武器は、敵を作らない温厚な言動とバランス感覚、そして何よりも国民に愛される誠実さでした。

やがてコロナパンデミックが起こりました。コンテ首相の政治手腕は、世界最悪のコロナ地獄の中で最も良く発揮されました。

首相は阿鼻叫喚のコロナ修羅場の底で、テレビを通して文字通り連日連夜、団結と我慢と分別ある行動を、と国民に語りかけ訴え続けました。

全土ロックダウンの呪縛の中、恐怖と不安にわしづかみにされながらテレビ画面で彼の演説を見、聞く人々は、その誠心に説得され共感し勇気付けられていきました。

第1波の過酷なロックダウンでは、法律や規則や国の縛りが大嫌いな自由奔放なイタリア国民の、なんと96%もが施策を支持しました。

それ以外には当時のイタリア国民には選択肢がなかったこともあります。だが、過酷な政策への異様なほどに高い支持率は、コンテ首相の類い稀な意思伝達能力と誠実と情熱によって成就されたものでした。

特に重要なのはコンテ首相の誠実さです。彼の言動にはうそ偽りのない誠情があふれているため国民の信頼を集め、その度合いは日々大きくなっていきました。

レンツィ元首相にはコンテ首相にある清廉正直な資質が全く感じられません。あるのは自己中心的な能弁と政治的駆け引き、それに若くして首相にまで登り詰めた自信から来るらしい驕慢だけです。

稀代の策略家であるレンツィ元首相は、彼と彼の政党が、三角波の渦巻くイタリア政局の藻屑となって消えるかもしれない瀬戸際で、ぎりぎりの政治ゲームを仕掛けています。

だがイタリアは、今この時も新型コロナ危機のまっただ中にいます。そしてコンテ首相は、世界最悪のコロナ第1波の地獄を先導し克服した立役者です。

コンテ首相の背後には、連立政権の中心である左派ポピュリスト党の五つ星運動がいます。五つ星運動は、ベーシックインカムと称して票集め目的の現金バラマキ策をゴリ押しするなど、極左的な策も進めています。

コンテ首相は五つ星運動所属ではなく、過激論にも与していないように見えます。彼の政治の真骨頂は穏健とバランス感覚。極論よりも中庸論を好む指導者です。

少なくともパンデミックが終わるまでは、国民の信頼が厚いコンテ首相が政権を担うべきではないでしょうか。

凄惨なコロナ地獄からイタリアを救えるのは、レンツィ元首相をはじめとするイタリア政界の魑魅魍魎ではなく、誠実な政治素人のコンテ首相しかいないと思うのです。

なぜそう思うかですって?

だって昨年2月から5月にかけてのコロナ地獄中に、勇気ある過酷なロックダウン策を導入してイタリアを救ったのは、レンツィ元首相に代表される政界の魑魅魍魎ではなく、コンテ首相その人だったのです。

レンツィ元首相は論外ですが、この国の他の政治家らにも、未曾有のコロナ危機を切り抜ける力量と勇気、そして何よりも人としてのまた政治家としての誠実さがあるとは全く思えません。



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