マリオ・ドラギ内閣がイタリアの上院と下院で正式に信任されました。
上院は賛成262票、反対40票。また下院は賛成535票、反対56票。圧倒的と形容するのもバカバカしいほどの絶対多数での信任になりました。
議会第1党の極左ポピュリスト「五つ星運動」と、同じく第2党の極右ポピュリスト「同盟」が、2018年の第1次コンテ内閣をなぞるかのように同時に政権入りしました。
そこに左派の「民主党」とベルルスコーニ元首相が率いる右派の「フォルツァ・イタリア」 が加わり、さらに左右中道ナンデモカンデモコレデモカ、とばかりに各小政党や会派が連立に参加しました。
主要政党で政権入りしなかったのはファシスト党の流れをくむ「イタリアの同胞」のみ。
まさに大連立、大挙国一致内閣です。
口論、対立が絶えないイタリア政界を見慣れている目には異様とも映るその状況を、極右政党「イタリアの同胞」のジョルジャ・メローニ党首は、「北朝鮮みたい」と喝破しました。
極右の「イタリアの同胞」は、ドラギ首相よりも彼らの天敵である五つ星運動への反発から大連立に加わりませんでした。
とはいうものの、実態は「連立から弾き出された」という方がより真相に近いのですが。
同党は、いつも怒っていていつも人に殴りかかりそうな険しい話し方をする、メローニ党首に似て明朗さに欠けます。少しうっとうしい。
それはさておき、筆者はメローニ党首の「北朝鮮みたい」発言に少々ひっかかりを覚えました。
彼女はなぜイタリアでは北朝鮮よりもはるかに存在感の強い「中国みたい」とは言わなかったのだろう?と。
北朝鮮はその隣でいろいろ迷惑をこうむる日本から見る場合とは違って、イタリアからは心理的にも距離的にも遠い。
距離の遠さという意味では中国も同じですが、中国は遠くにありながら心理的にも物理的にもイタリアに極めて近い。というか、近すぎます。
イタリアは2019年、中国の一帯一路構想を支持し、G7国で初めて習近平政権との間に覚書を交わしました。
極左のポピュリスト「五つ星運動」の、いわばゴリ押しが功を奏しました。
そればかりではなく、イタリアには中国製品と中国人移民があふれています。昨年は中国由来とされる新型コロナで、世界初且つ世界最悪ともされる感染地獄に陥りました。
さらに良識あるイタリア国民の間には、中国による香港、ウイグル、チベットなどへの弾圧や台湾への威嚇などに対する反感もあります。
イタリアの右派は一帯一路を巡る中国との覚書を快く思っていません。2019年にそれが交わされた時、政権与党だった「同盟」は反発しました。「イタリアの同胞」は「同盟」の朋友でしかも「同盟」よりも右寄りの政党です。
中国への反発心はイタリアのどの政党よりも固いと見られています。
それでいながらメローニ党首は、ネガティブな訳合いの弁論の中で、中国を名指しすることを避けました。それはおそらく偶然ではない。
そこには中国への強い忖度があります。
イタリアの国民の間には明らかな反中国感情があります。しかし政治も公的機関も主要メディアも、国民のその気分とは乖離した動きをすることが多い。
イタリア政府は世界のあらゆる国々と同様に、中国の経済力を無視できずにしばしば彼の国に擦り寄る態度を見せます。
極左ポピュリストで議会第1党の「五つ星運動」が、親中国である影響もあります。イタリアが長い間、欧州最大の共産党を抱えていた歴史の残滓もあります。
共産党よりもさらに奥深い歴史、つまりローマ帝国を有したことがあるイタリア人に特有の、心理的なしがらみもあります
イタリア人が、古代ローマ帝国以来培ってきた自らの長い歴史文明に鑑みて、中国の持つさらに古い伝統文明に畏敬の念を抱いている事実です。
その歴史への思いは、いまこのときの中国共産党のあり方と、中国移民や中国人観光客への違和感などの負のイメージによって、かき消されることも多い。
しかし、イタリア人の中にある古代への強い敬慕が、中国の古代文明への共感につながって、それがいまの中国人へのかすかな、だが決して消えることのない好感へとつながっている面もあります。
淡い好感に端を発したそのかすかなためらいが、極右のボスであるメローニ党首のしがらみとなって、「ドラギ政権は一党独裁の中国みたい」と言う代わりに、「まるで北朝鮮みたい」と口にしたのではないか、と思うのです。
筆者は極右思想や政党には強烈な違和感を覚える者ですが、中国共産党に噛み付かない極右なんて、負け犬の遠吠えにさえ負けていて、もっとつまらない、と思わないでもありません。
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