イタリアの紅白歌合戦「サンレモ音楽祭」の陳腐な凄さ

筆者が勝手にイタリアの紅白歌合戦と呼んでいるサンレモ音楽祭が昨日(2月6日)閉幕しました。サンレモ音楽祭はほぼ毎年2月に開催されます。

紅白歌合戦とサンレモ音楽祭には多くの共通点があります。両者ともに公共放送が力を入れる歌番組で、ほぼ70年の歴史を誇る超長寿番組です。

どちらも1951年のスタート(NHKは1945年開始という説も成り立つ)。当初はNHK、RAI共にラジオでの放送でしたが、NHKは1953年から又RAIは1955年からテレビ番組となりました。

国民的番組の両者は、近年はマンネリ化が進んで視聴率も下がり気味ですが、依然として通常番組を凌ぐ人気を維持。また付記すると、最近のRAIの番組の視聴率はNHKのそれよりもずっと高い傾向にあります。

両者ともにほとんど毎年番組の改革を試みて、たいてい不調に終わりますが、不調に終わるそのこと自体が話題になってまた寿命が延びる、というような稀有な現象も起こります。

その稀有な現象自体が実は両番組の存在の大きさを如実に示しています。

紅白歌合戦とサンレモ音楽祭は、また、似て非なるものの典型でもあります。実のところ両陣営は、相似よりも差異のほうがはるかに大きい。

紅白歌合戦は既存の歌を提供する番組。一方サンレモ音楽祭は新曲を提供します。あるいは前者は歌を消費しますが後者は歌を創造する。サンレモ音楽祭は音楽コンテストだからです。

紅白歌合戦がほぼ100%日本国内のイベントであるのに対して、サンレモ音楽祭は国際的な広がりも持ちます。つまり、そこでの優勝曲はグラミー賞受賞のほか、しばしば国際的なヒット曲にもなってきました。

古い名前ですが、例えばジリオラ・チンクエッティの音楽祭での優勝曲は国際的にもヒットしましたし、割と新しい歌手ではアンドレア・ボッチェッリなどの歌もあります。個人的には1991年の大賞歌手リカルド・コッチャンテなども面白いと思います。

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またサンレモ音楽祭は、欧州全体を股にかけたヨーロッパ最大の音楽番組「ユーロ・ビジョン・ソング・コンテスト」のモデルになるなど、特に欧州での知名度が高い。同時に世界的にも名を知られています。

周知のように紅白歌合戦は大晦日の一回のみの放送ですが、サンレモ音楽祭は5日間にも渡って放送されます。しかも一回の放送が4時間も続きます。つまり紅白歌合戦が5日連続で電波に乗るようなものです。

好きな人にはたまらないでしょうが、筆者などはサンレモ音楽祭のこの放送時間の膨大にウンザリするほうです。しかも番組は毎晩夜中過ぎまで続きます。宵っ張りの多いイタリアではそれでも問題になりません。

筆者は紅白歌合戦とサンレモ音楽祭の根強い人気とスタッフの努力に敬意を表しています。が、紅白歌合戦は日本との時差をものともせずに衛星生中継で毎年見ているものの、サンレモ音楽祭はそれほどでもありません。

その大きな理由は、毎日ほぼ4時間に渡って5日間も放送される時間の長さに溜息が出るからです。しかも翌日にまで及ぶ放送時間帯に対する疲労感も決して小さくありません。

もう一つ筆者にとっては重大な理由があります。そこで披露される歌の単調さです。カンツォーネはいわば日本の演歌です。どれこれも似通っています。そこが時には恐ろしく退屈です。

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もちろんいい歌もあります。優勝曲はさすがにどれもこれも面白いと考えて良い。ところがそこに至るまでの選考過程が長すぎると感じるのです。

演歌は陳腐なメロディーに陳腐な歌詞が乗って、陳腐な歌い方の歌手が陳腐に歌うところに、救いようのない退屈が作り出される場合も多い。カンツォーネも同じです。

誤解のないように言っておきますが、筆者は演歌もカンツォーネも好きです。いや、良い演歌や良いカンツォーネが好きです。ロックもジャズもポップスも同様です。あらゆるジャンルの歌が好きなのです。

しかし、つまらないものはすべてのジャンルを超えて、あるいはすべてのジャンルにまたがってつまらない。優れた歌は毎日毎日その辺に転がっているものではありません。99%の陳腐があって1%の面白い曲があります。

サンレモ音楽祭も例外ではありません。毎日4時間X5日間、20時間にも渡って放送される番組のうちの大半が歌で埋まります。だがその90%以上は似たような歌がえんえんと続く印象で、筆者にはほとんど苦痛です。

それでもサンレモ音楽祭はりっぱに生き延びています。批判や罵倒を受けながらも多くの視聴者の支持を得ている。それは凄いことです。筆者は一視聴者としては熱心な支持者ではありませんが、同じテレビ屋としてサンレモ音楽祭の制作スタッフを尊敬します。

創作とは何はともあれ、「作るが勝ち」の世界です。番組のアイデアや企画は、制作に入る前の段階で消えて行き、実際には作られないケースが圧倒的に多いからです。一度形になった番組は、制作者にとってはそれだけで成功なのです。

そのうえでもしも番組が長く続くなら、スタッフにとってはさらなる勝利です。なぜなら番組が続くとは、視聴率的な成功にほかならないからです。サンレモ音楽祭も紅白歌合戦も、その意味では連戦連勝のとてつもない番組なのです。

 

 

 

 

 

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