数年前に庭に植えた柿の木が実をつけています。
柿はイタリア語でも「カキ」と呼ばれます。そのことから分かる通り柿はもともとイタリアにはなく、昔日本から持ち込まれたもので、ほとんどすべてが渋柿です。
そのままでは食べられないので、イタリア人は容器や袋に密封して暗がりに置き、実がヨーグルトのようにとろとろになるまで熟成させてから食べます。そうすると渋みがなくなって甘くなります。
要するにイタリアには、固い渋柿かそれを超完熟させた、とろとろに柔らかい甘柿しかありません。
つまりこの国の人々にとっては、柿とは「液状に柔らかくなった実をスプーンですくって食べる果物」のことなのです。
最近は外国産の固い甘柿も売られていますが、彼らはそれもわざわざ完熟させて極端に柔らかくしてから食べます。
かつて日本から柿をイタリアに持ち込んだのは恐らくキリスト教の宣教師だと思います。
その際彼らがあえて渋柿を選んだとは考えにくい。きっと甘柿と渋柿の苗木を間違えたのでしょう。
あるいは甘柿のなる木が多くの場合、接ぎ木をして作られるものであることを知らなかったのでしょう。
そんなわけで「普通に固い甘柿」が大好きな筆者は秋になるといつも欲求不満になります。
店頭に出回る柔らかい柿はあくまでも「カキ」であって、さくりと歯ごたえのある日本のあの甘い柿とはまるきり別の果物だと感じるのです。
そこで庭に柿の木を植えて甘柿の収穫を目指しました。
植木屋に固い甘柿がほしいのだと繰り返し説明して、柿の木を手に入れ植えました。
数は多くありませんが甘柿の木はあるのです。それには蜘蛛の巣のような模様のある実が生ります。ところが庭の木に生った実は全て渋柿でした。
植木屋が筆者をだましたとは思えません。
彼はきっと筆者にとっての固い甘柿の重要さが理解できなくて、実がとろとろになるまで熟成させて食べれば渋いも甘いも皆同じじゃないか、と内心で軽く見切って木を筆者に売ったと見えます。
少し腹立たしくないこともありませんが、実をつけた柿の木は景色として絵になるので、まあ好し、と考えることにしました。
庭に生る柿は熟成させて家族が食べ、筆者は相変わらず店で固い甘柿を買って食べています。
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