反安倍一辺倒ではないが反安倍の理由

安倍首相批判になった前記事に対して保守派の方から抗議の便りをいただきました。何度か便りをくださっている方で、結局筆者は安倍首相の全てが嫌いで全てに反対なんですね、と締めくくられていました。

安倍さん批判の記事を書くと彼のファンの方からよくメッセージをいただきます。たいてい筆者が一から十まで反安倍だと思い込んでいます。だがそんなことはまったくないので、その旨の返事をしました。これから書くのは安倍ファンのその読者にお送りした内容を踏まえて、さらに少し加筆・拡大したものです。

安倍さんの全てが悪いのではない

筆者は安倍さんを政治的に支持しませんが、別に彼の全てに異を唱えているわけではありません。以前から言っているように彼の「全てが悪いのではなくやり方に問題がある」と考える者です。そこに言及する前に、これから述べる事案における筆者の政治的な立ち位置をはっきりさせておきます。

筆者は日米同盟には賛成です。賛成どころか同盟の強化を願っています。むろん日米安保も支持します。また筆者はアメリカが好きです。仕事でニューヨークにも住みました。しかし筆者がアメリカを好きなのは、ニューヨークに住んだことが理由ではありません。筆者はアメリカの在り方が好きなのです。

アメリカには人種差別も不平等も格差も貧困も依然として多くあります。それは紛れもない事実です。だがアメリカは、今この時のアメリカが素晴らしいのではありません。愚昧な差別主義と無知から解放された米国の良識ある人々が、アメリカは「かくありたい」と願い、それに向かって前進しようとする「理想のアメリカ」が素晴らしいのです。

その理想とは、より寛容でより自由でより平等なアメリカという理念であり、偏見や差別や憎しみをあおるトランプ大統領の政治姿勢とは真っ向から対立する行動規範です。 そしてアメリカの強さは、彼らが理想を語るだけではなく実際に行動を起こすことです。

アメリカ合衆国は地球上でもっとも人種差別が少ない国です。これは皮肉や言葉の遊びではありません。奇をてらおうとしているのでもありません。日本で生まれ、ロンドンに学び、ニューヨークに住んでアメリカ人と共に仕事をし、今も彼らと付き合いつつ欧州から米国の動向を逐一見ている筆者自身の、実体験から導き出した結論です。

米国の人種差別が世界で一番ひどいように見えるのは、米国民が人種差別と激しく闘っているからです。問題を隠さずに話し合い、悩み、解決しようと努力をしているからです。断固として差別に立ち向かう彼らの姿は、日々ニュースになって世界中を駆け巡って目立ちます。そのためにあたかも米国が人種差別の巣窟のように見えるのです。

アメリカには人種差別があります。同時に自由と平等と機会の均等を求めて人種差別と闘い続け、絶えず前進しているのがアメリカという国です。長い苦しい闘争の末に勝ち取った、米国の進歩と希望の象徴の一つが、黒人のバラック・オバマ大統領の誕生でした。

安倍さんに賛成し反対する

アメリカが腹から好きな筆者は、安倍首相がトランプ大統領との友情を深め日米同盟の絆を強調し、軍事経済文化その他全ての分野で日米が仲良くすることに賛成です。ところが筆者には安倍さんのやり方が腑に落ちない。アメリカへの追従が過ぎる、と思うのです。

日本は敗戦以来、常にアメリカの子分として生きてきました。戦争に敗れ、軍事また経済で圧倒され、文化・文明度でもアメリカの足元にも及ばない、と政府も国民も自信を喪失していたのですから、そうなったのも仕方がありません。

時は過ぎて、日本が少しは自信を取り戻した幸運な季節に権力を握った安倍さんは、戦後レジームからの脱却を旗印にしました。つまりアメリカとの同盟関係を維持しながら属国の位置を抜け出し、対等な付き合いを目指すと見えたのです。

ところが安倍さんは逆方向に進みました。それはトランプ大統領が誕生して以降は加速をつづけて、今ではもはや後戻りはできないほどになりました。それが端的に現れたのが2016年、トランプさんが大統領選に勝利したとき、安倍首相が世界の首脳に先駆けてトランプタワーに乗り込んで、彼を祝福し友好親善を推し進めたエピソードです。

世界の大半がトランプ勝利に眉をひそめている最中に、「何らの批判精神もなく」彼に取り入った安倍さんの行為は世界を驚かせました。そこには安倍さんならではの無邪気と無教養が如実に現れていました。 自尊心のかけらもないような諂笑を振りまいて恥じない姿はおどろきでした。

筆者の安倍さんへの不信感の根はそのエピソードに象徴的に集約されます。しかし「何らの批判精神もなく」トランプ大統領に追随する姿勢は、安倍さんのその他の政治行為や施策にも多く現れて、筆者の中では違和感が高まりつづけました。ほんの2、3の例を挙げてみます。

北朝鮮

先ず北朝鮮への対応です。安倍首相は金魚のフンよろしくトランプ大統領に寄り添って、彼が圧力と経済制裁と言えば全く同じように追従し、大統領が強硬姿勢を対話へと切り替えて金正恩委員長との首脳会談を実現すると、またそれを真似て前提条件なしに金正恩とトップ会談をしたい、と臆面もなく言い出します。

対話は相手が誰であれ良いことです。だがトランプさんの物まねにしか見えない動きはみっともないのひと言につきます。あるべき姿はアメリカと協調して圧力と制裁は続けながらも、水面下で彼独自の対話路線を模索するなどの、外交のいろはに基づく信念のある政策と行動です。それは中国との場合も同じです。

トランプ大統領は、北朝鮮や中国に今にも武力攻撃を仕掛けかねないような激しい言動をしていても、常に対話の道を探る姿勢を言葉の端々に込めて発言しています。それなのに安倍さんが、まるでトランプさんの表向きの言葉のみに注目して右往左往するかのような姿は不可思議です。

安倍首相は最近、前提条件なしでの日朝首脳会談を呼びかけて「安倍は軍国主義」と軍国主義者の金委員長に斬り捨てられましたが、さて次はどう動くのでしょうか。米北朝鮮の対話路線は紆余曲折を経ながらも続きそうです。ならばもしも2国関係が元に戻って対決姿勢を強めるなら、安倍さんは次はまた前言を翻して、北朝鮮に圧力と制裁を!と叫び始めるのでしょうか。

中東政策

イスラエルの例も見てみましょう。トランプ米大統領が2017年12月、エルサレムをイスラエルの首都と認める、と宣言して世界を震撼させました。それはトランプ大統領によるアラブ・イスラムの国々への新たなる挑発であり侮辱でした。

驚きの声明にアラブ世界は言うまでもなく、欧州列強をはじめとする世界の国々が反発、非難しました。ところがトランプ大統領の政策なら何でも支持する安倍政権は、トランプ大統領の宣言に異を唱えるどころか「沈黙を守ること」で、チェコやフィリピンと共に大統領支持に回ったのです。

トランプ大統領は例によって、臆面もなく一方を立て一方を無残に斬り捨てる方法で、中東のイスラエルを庇護し、パレスチナを含むアラブ諸国を貶めました。安倍さんもこれまた例によって「なんらの批判精神もなく」トランプ大統領を100%支持しました。

無批判に米国に付き従う施策はエスカレートして、日本とイスラエル間に史上初めて直行便が飛ぶ事態にまで至りました。そこにはトランプさんに追従し忖度し彼のケツ舐めに徹する、安倍さんの意向が働いていると見てもそれほど的外れではないでしょう。

筆者の批判はそこでも同じです。イスラエルとの交誼は歓迎するべきことですが、そこに安倍さん独自の考えがなく、トランプさんに絡めとられているとしか見えない事態がやりきれないのです。加えてイスラエルと敵対するアラブ諸国への配慮が欠けていて、国益を損なうものなのですからなおさらです。

真の同盟関係の強化は、卑屈を排し互角の立場で付き合うところでしか成り立ちません。それは一方が軍事的に強力で経済的に豊かで国力がある、という物理的な優劣とは別の、いわば「精神の対等性」のことです。それがあれば、たとえば欧州などの首脳が、米国を最大の同盟国と認めながらも、トランプ大統領に堂々と物申す姿勢と同じやり方が可能になります。

友情とは対等な人間関係に基づく信頼と親しみと絆のことであり、言いにくいことでも言うべきところは言い合う関係です。それは国家間にもあてはまります。日米間になそんな友情は存在しません。ご主人様のアメリカに日本が従僕のごとくひざまずくことからくる、見せ掛けの友宜があるのみです。安陪さんはそれを矯正するどころかさらに補強し悪化させています。

短期留学の陥穽

安倍さんが米国と対等の付き合いを模索できないのは、もしかすると彼がアメリカに2年間留学したという経験がトラウマになっているのではないか、とさえ疑うほどです。外国、特に欧米に短期留学したり仕事などで長期滞在をした日本人の中には、突然ナショナリストへと変身する者が少なくありません

それには理由があります。彼らは憧れて行った欧米の文明国で、日本社会の徹底した西洋模倣の現実と同時にその後進性に衝撃を受けます。そこでふいに欧米への強い対抗心に目覚めて民族主義者になるのです。そこにもしも欧米社会と欧米人に見下された、という体験が重なると相乗効果が生まれて事態はさらに深刻になります。

そうしたショック現象は、留学が長期化するに従って和らいでいき、やがて彼らは欧米の文化文明の真の価値に目覚めていきます。彼らは欧米社会の寛容と解放と自由と人権主義に触れ、それに拠って立つ民主主義の進歩性に気づき、これを理解し尊敬し成長して、そこから生まれる叡智によって自らの国の文化文明も客観視し理解することができるようになります。

欧米に1~2年程度の短い留学や在住経験を持つ保守主義者には気をつけた方がいい。彼らは親欧米であろうが反欧米であろうが、生半可な西洋理解の知識蓄積に縛られていて、知ったかぶりと誤解と曲解に基づくねじれた主義主張をして平然としていることが少なくありません。彼らのねじれた心理が矯正されるためには、頭でっかちの机上論ではなく、欧米の地にさらに長く留まることで得られる経験知が必要です。

安倍さんがとらわれているように見える、トランプさんやアメリカへの抜きがたい劣等感のようなものは、もしかすると短期留学体験者が陥りがちな陥穽に嵌まった彼の心理屈折がもたらすものではないか、と筆者は時々疑ってみます。劣等感は、西洋文明の堅牢に圧倒された短期留学者が、その反動で必要以上に西洋の文物や在り方に対して居丈高になるのと病原が同じなのです。

もう少し続けます。学校等で得た知識ではなく、知識と共に欧米社会の中に長く住み続ける以外には理解できない文化・文明の懐の深さというものがあるのです。それを理解すれば劣等感と劣等感の裏返しである行き過ぎた国粋主義や敵愾心も消えます。なぜなら西洋文明の分別は、そうした劣等感の無意味もまた教えてくれるからです。

愛国者

平家、海軍、国際派という成句があります。社会のメインストリームから外れたそれらの人々は、日本では出世できないという意味の言葉ですが、政治問題関連の論壇などでは往々にして「反日」と同じ風に使われたりもする言葉です。

だがそれは間違いで、平家の中にも、海軍の中にも、国際派の中にも愛国者はいます。と言いますか、そこには源氏、陸軍、国内(民族)派とまったく同数の愛国者がいるのです。そして筆者自身は国際派の愛国者を自負している者です。国際派ですから、こう して出世もできずに恐らく死ぬまで外国を放浪し続ける、という寂しい人生を送っているわけですが。

一方安倍さんは、日本最強の権力者であると同時に、日本主流派のそれも中核に属する愛国者です。日本の傍流の国際派の、プー太郎的愛国者である筆者とは比べるのがアホらしいほどに格が違います。しかしながら愛国者の度合いにおいては彼と筆者のそれは何も違いません。筆者はその立ち位置から彼にもの申しているだけです。

これからも機会があれば、安倍さんへの批判記事や逆に「賞賛記事」でさえ恐れずに書いて行くつもりです。が、正直に言えばここまでに既に言いたいことの多くは言った気がしないでもありません。安倍首相ファンの皆さんのおしかりや反論は、それが匿名の卑怯者の咆哮ではない限り喜んでお受けしますが、意見の開陳は一つひとつの記事のみならず、これまでのいきさつも含めて考察した後にしていただければ有難い。

次にこれまでのいきさつに当たる記事のリンクを貼付します。できれば目を通していただきたいと思います。

http://blog.livedoor.jp/terebiyainmilano/archives/52128918.html
http://blog.livedoor.jp/terebiyainmilano/archives/52173441.html
http://blog.livedoor.jp/terebiyainmilano/archives/52258325.html
http://blog.livedoor.jp/terebiyainmilano/archives/52273203.html


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