イタリアを含むEU(欧州連合)のワクチン接種戦略は、宇紆余曲折をたどりながらもほぼ軌道に乗りつつあります。
2021年、5月18日現在のイタリアのワクチン接種状況は:19.618.272人で人口の 32,89% 。このうち2回接種を受けた者:9.241.064人で人口の15,49%。
接種率約33%というイタリアの数字は、EU全域の数字と見てほぼ間違いありません。
EU27ヵ国は共同でワクチンを購入し、人口に応じて公平に分配する仕組みを取っています。人口が多いほど受け取るワクチンの数は多くなりますが、接種比率はほぼ同じです。
しかし国によって接種状況は違います。
ある国は高齢者への接種を優先させ、ある国は医療従事者への接種をまず徹底し、他の国は両方を組み合わせるなど、国によってワクチンの使い道は自由に裁量できるのです。
例えばここイタリアでは医療従事者への優先接種を大幅に進めたあとで、80歳以上の高齢者への接種を始めました。
5月20日現在は、50歳代の国民への接種も開始されています。
ワクチンの数が足りなかった2月から3月にかけては、順番や年齢を無視して抜け駆け接種をする不届き者の存在が問題になりました。
筆者の近くでも、介護で多くの老人に接することが多い、と偽って抜け駆け接種をした女性がいます。50歳代の彼女は他人の家で働くいわゆる家事手伝い。
長い間寝たきりだった夫を介護していた事実を利用して、あたかも他者の介護もする介護人資格保有者のように装い2月頃にワクチンの優先接種を受けました。
そのことがバレて近所で評判になりましたが、彼女は悪びれず「私は他人の家に入って清掃をするのが仕事。人の家だから感染のリスクが高い」と強弁してケロリとしていました。
似たようなことがイタリア中で起こりました。4月初めの段階で、自分の番でもないのに割り込みで抜け駆け接種を受けた者は、全国で230万人にものぼりました。
中でも南部のシチリア、カラブリア、プーリア、カンパーニャ各州で割り込み接種が多く、4州ではそのせいで優先接種を受けるべき80歳代以上の住民の接種が大幅に遅れました。
そのうちナポリが州都のカンパーニャ州では、デ・ルーカ州知事自身が順番を無視して抜け駆け接種をしたことが明るみに出ました。
批判を浴びると知事は、「カンパーニャ州は年齢順ではなく業種別に接種を進める」と開き直りました。
南部4州に加えて、フィレンツェが州都のトスカーナ州でも割り込み接種が多くありました。同州では80歳以上の人を尻目に接種を受けた狡猾漢が、弁護士や役場職員や裁判官などを中心に12万人にも及びましだ。
似たようなことは、お堅いはずのドイツでさえ起こってます。例えば旧東ドイツのハレ市では、64歳の市長が、優先接種の対象となっている80歳以上の人々を出し抜いてワクチン接種を受けました。
市長は「時間切れで廃棄処分に回されそうなワクチンを接種しただけ」と言い訳しました。しかし原理原則に厳しいドイツ社会は抜け駆けを許さず、辞職を含む厳しい処分を受けると見られています。
同様な問題は日本でも起こっています。が、ドイツほどの苛烈な批判にはさらされていませんし、状況そのものもイタリアほどひどくはありません。とはいうものの、どの国であれ、コネや地位を利用しての抜け駆け接種はやはり見苦しい。
その一方で、ドイツの厳格さも息が詰まるように感じるのは、よく言えばイタリア的寛容さ、悪く言えばイタリア的おおざっぱに慣れた悪癖なのかもしれません。
「人は間違いをおかす。だから許せ」が信条のイタリア人は、醜聞まみれのあのベルルスコーニさんも許し、ワクチン抜け駆け接種のろくでなしなども最終的には許してしまいます。
人間ができていない筆者は、どちらも許せないと怒りはするものの、結局イタリア人の信条にひそかに敬服している分、ま、しょうがないか、と流してしまういつもの体たらくです。
official site:なかそね則のイタリア通信