プーチン憎しでバイデン節が絶好調だ

ロシアがウクライナへの激しい攻撃を続ける一方で、停戦へ向けての交渉や各国の仲介協議また外交活動も活発に行われています。

印象としては、プーチン大統領がコワモテの独裁者を実演しつつ、ウクライナ潰しがうまくいかないことへの焦りから、停戦も模索している雰囲気です。

だがその間もプーチン大統領は、ウクライナで無垢な人々を殺戮し続けている、というのが2022年3月28日現在のウクライナ戦争の実相であるように思います。

そんな中でNATOの会議に出席したバイデン大統領が、彼の得意な絶好調失言をやらかして米政権幹部や欧州首脳らを困惑させました。

バイデン大統領は帰国直前、ポーランドのワルシャワで「プーチンはロシア大統領の地位にとどまるべきではない」という趣旨の発言をしました。

バイデン大統領はあらかじめ用意されていた原稿を読み終えたあとに、彼自身の思いつきでそう発言して演説を締めくくりました。

ありていに言えばバイデン大統領は、「プーチンを権力の座から引きずりおろす」と宣言するにも等しい発言をしたのです。当然のようにその言葉は激震を招きました。

ブリンケン国務長官をはじめとするバイデン政権の幹部やスタッフは、大統領はロシアの政権の転覆を意図して発言したのではない、と火消しに躍起になりました。

またマクロン大統領をはじめとする欧州首脳も発言におどろいて、バイデン発言を批判。

マクロン大統領は「停戦合意を追求するなら、言葉でもアクションでもエスカレートしないようにするべき」とやんわりと米大統領に釘を刺しました。

マクロン大統領は戦争勃発以降、3月22日までにプーチン大統領と合計8回、またウクライナのゼレンスキー大統領とも20回近い会談を行っています。停戦に向けて懸命に動いているのです。

バイデン大統領の失言癖は今に始まったことではありません。彼は副大統領時代にも多くの失態を演じ、大統領になってからもその性癖は変わっていません。

バイデン大統領はロシアがウクライナを蹂躙してこの方、プーチン大統領を「凶漢」「人殺しの独裁者」「戦争犯罪者」などと公に罵倒してきました。それらの表現も失言と見なす人々が多くいます。

今回の発言も彼の失言と捉えられています。戦争の激化を避け停戦を模索する西側陣営のリーダーの発言としては、それは失言以外のなにものでもない、と筆者も思います。

なぜならその言葉が外交慣例にそむき、ロシアを刺激し、なによりもプーチン大統領に絶好のプロパガンダの機会を与えてしまう可能性があるからです。

プーチン大統領はその言葉尻をとらえて、大義の全くないウクライナへの侵略が、彼の政権を転覆させようと企む西側への対抗手段だ、などとも強弁しかねません。

バイデン大統領の勇み足は従って糾弾されるべきものです。

だが同時に、人間としてのバイデン大統領の行為は賞賛されるべきものだとも筆者は思います。

「プーチンを権力の座から引きずり下ろせ」という思いは、プーチン大統領自身とその取り巻き、また世界中のトランプ主義者及び排外差別主義者以外の誰もが、今このときに胸に抱いている願いではないでしょうか。

感情移入が激しいとされるバイデン大統領は、ウクライナを逃れてポーランドほかの国々に避難している多くの子供やその母親たち、また破壊されたウクライナの惨状を間近に見、感じて、人としての憤りに我を忘れたところがあるのでしょう。

彼の憤懣もまた世界中のほとんどの人々が共有する感情です。

バイデン大統領はかつて、ロシアが蛮行に及ぶ予兆を知った時に、小規模の侵攻なら制裁しない、といつものボケをかましました。

さらにロシアがウクライナを襲いかかると、メリカは軍事介入をしない、と言わぬが花の真実を強調しまくるミスなども犯しました。

彼はそこでは、「いかなる侵攻も侵攻であり決して許さない」と表明し、「アメリカは軍事介入をする覚悟がある」と示唆して、プーチン大統領をけん制するべきだったのです。

それらの失態は、彼が老害大統領と陰口を叩かれても仕方がないミスです。

だがプーチン大統領と彼の周りの権力を、歯に衣を着せずに糾弾する言葉は、人々の思いをストレートに代弁している分、失言とばかりは言えないのではないでしょうか。

少なくともプーチン大統領の悪を指摘することで、反プーチン世論を喚起し彼を追い詰めて停戦へと向かわせる効果がないとは言えません。

その一方で、追い詰められたプーチン大統領がさらに凶暴になる、という逆効果を招く可能性ももちろん否定はできないのですが。

 

 

 

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ロシア包囲網に於けるイタリアの立ち位置

新聞、テレビ、ネットをはじめとするとするありとあらゆるメディアが、昼も夜もそして真夜中でさえも、ウクライナにおけるプーチン・ロシアの蛮行をこれでもかとばかりに伝え続けています。

戦争は世界中で一日の休みもなく行われています。だが情報開示が当たり前に展開されている欧州で、実戦が進行するのはきわめて異例のことです。

欧州は紛争や対立を軍事力で解決するのが当たり前だった野蛮且つ長い血みどろの歴史を経て、それを話し合いと外交で解決しようとする進歩的且つ教化された民主主義の道を確立しました.

片やロシアは、未だそこに至らない未開国であることが明らかになりました

情報を隠し、歪め、虚偽を垂れ流すプーチン・ロシアは欧州の一部ではありません。それはアジアです。

ここで言うアジアとは、民主主義を理解しない中国的、アラブ的、日本右翼的勢力の全てです。つまり未開で野蛮で凶悪なアジア的精神。

敢えて日本のみに目を向ければ、残虐でどう猛で卑怯な戦闘集団だった旧日本軍と軍国主義日本の過去を直視しようとせずに、むしろそれを隠蔽し否定し都合のよい情報のみを言い立てて、歴史を修正しようとするネトウヨ系排外差別主義勢力のことです。

自由と民主主義を謳歌する西側世界は、アジアに属するロシアとは全く逆の社会状況にあります。そこでは横暴と悪意と欺瞞に支配されたプーチン・ロシアの情報操作の実態が、あらゆる角度から暴かれています。

欧州の全ての国は、ウクライナ危機が自国にとって対岸の火事ではないことを実感しています。ウクライナが陸続きで地理的に近く、且つ欧州の過去の血みどろの大戦や闘争の記憶が全ての人々に共有されているからです。

そして何よりもロシアのプーチン大統領が、民主主義の精神とはかけ離れた独善と悪意と憎悪にまみれた異様な指導者であることが再確認されたからです。

ロシア包囲網に断固とした意志で参加しているイタリアは、歴史的にロシアと親和的な関係を築いてきました。イタリアが長く欧州最大の共産党を有してきたからです。同じ動機でイタリアは中国とも親しい

それはだが近代史における政治ゲームに過ぎません。統一国家であるイタリア共和国の真髄には、独立心旺盛で自由な都市国家群がいきいきと息づいています。イタリア共和国の核心は政治ゲームの主体ではなく、それらの都市国家がもたらす多様性なのです。

国家構成の基盤に多様性が居座っているイタリアは、対外的にも多様で実践的な政治体制を維持しています。敢えてひとことで分かり易くいえば、イタリアは世界中のあらゆる国と親和的なのです。少なくともその意志を秘めて世界に対しているのがイタリア共和国です。

それは八方美人とか日和見主義を意味するのではありません。自立志向の強い都市国家群を統一国家内に含む場合の必然の帰結です。言葉を変えれば中央政府は、国内にある多種多様な意見や意思を絶えず尊重し耳を傾け続けなければなりません。

そのスタンスは対外的にも増幅されてイタリア共和国の立ち位置を規定していきます。つまりそこでも多様性を重視する姿勢になります。イタリアは歴史的にもまた思想的にも、誰とでも共存しなければならない性根を持っています。あるいは誰とでも親和的でなければならない性根に縛られています。

イタリアとロシアは、地理的には遠い立場ながらも歴史的に良好な関係を保ってきました。専門家の中にはその状況を指して「イタリアは欧州におけるロシアのもっとも親しい国である」と断定する者さえいます。

イタリアはプーチン大統領自身とも友好的な関係にあります。その善し悪しまた好悪は別にして、現代イタリア最大の政治的存在であるベルルスコーニ元首相は、プーチン大統領とは親友同士とさえ呼べる仲です。

86歳の元首相は2022年3月19日、性懲りもなく53歳年下の女性と3回目の結婚式を挙げました。彼の友人のプーチン大統領は、もしもウクライナへの暴力行使で忙しくしていなければ、おそらく結婚式に出席していたことでしょう。

また極右政党「同盟」と「イタリアの同胞」のサルヴィーニ、メローニの両党首は、相変わらずプーチン大統領を賞賛して止みません。イタリア中がプーチン大統領の残虐な戦争に怒りをあらわにしているため、彼らも戦争反対と口では言っています。だが本心は相変わらずプーチン万歳というところでしょう。

ポピュリストの彼らは時勢が右といえばそれに追随し、左といえばそれに媚びます。節操もなく信義もなく核もない。あるのは粗暴で抑圧的な感情と怒りです。

そして極右の2政党とベルルスコーニ党が手を組んで選挙に臨めば、イタリアは世論調査の数字上は、明日にでも彼らに統治されることがほぼ確実な情勢です。

だがそれらプーチン愛好家の人々の願いも空しく、イタリア政府は今のところはNATOまたEUとぴたりと歩調を合わせてロシアに歯向かっています。そしてロシアは、イタリアを敵性国家と規定しエネルギー供給を止める、などと脅してさえいます。

イタリアはエネルギー源であるガスの90%を国外から輸入していて、総輸入量の45%がロシア産です。イタリアはEU加盟国の中では、ガスの5割以上をロシアから購入しているドイツに次いでロシアへの依存度が高いのです。

2014年~15年のクリミア危機では、イタリアの当時のレンツィ政権は、ロシアと関係が深い国内のエネルギー業界の抵抗に遭って、ロシアに対して強硬措置を取ることができませんでした。ドイツもほぼ同じ状況でした。

だが両国は、今回のロシアの蛮行に際しては、揃って立ち上がって他の国々と歩調をあわせロシアに対峙しています。

イタリアが速やかに行動できたのは、ドラギ政権の力によるところが大きい。

2021年に政権を握ったマリオ・ドラギ首相は、ほぼ全ての政党が一致団結して政権を支持している事実と、首相自身の求心力の強さを背景にEUにぴたりと寄り添い、対ロシアへの強硬路線を取っています。

イタリアはロシアがウクライナに侵攻して間もなく、1億1千万ユーロをウクライナ政府に提供すると表明しました。またNATOには、今後2年間であらたに1億7千400万ユーロの貢献をすることも決めました。同時にウクライナ難民には、難民申請を出さなくてもイタリア滞在が可能になる措置を取っています。

さらにイタリアは、ひとまず合計約5000人の兵士をウクライナ周辺国へ送る決定も下しました。ハンガリーとルーマニアにはそのうちの3500人が派遣されます。ルーマニアでは同国の空軍をイタリア空軍が指導しサポートします。

加えてイタリアは、ウクライナ危機を国家非常事態宣言下に置くことも決定しました。それによって政府はコロナ禍中と同様に、緊急の規制や法律を国会の承認を得ることなく施行することが可能になります。

イタリアを含む欧州は、静かにだが断固とした意志で、プーチン独裁政権に対抗して臨戦態勢に入っていると形容しても過言ではありません。

 

 

 

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コロナ後はサラミをみやげに日本に帰りたい

まだ希望的観測の類いですが、コロナが終息しそうだからと、日本帰国に備えてお土産を考え始めました。

するとそこにウクライナ危機が勃発して、気分が元の重さに逆戻りしてしまいました。

コロナも戦争もなく、欧州もむろん日本も平和だったころ、筆者は新聞に次のような趣旨のコラムを書きました。

             イタリアみやげ

かさばらない、腐らない、気どらない。それでいてイタリア的、とういうのが僕の日本へのおみやげ選択の条件である。例えばとてもイタリア的なものであるワインはかさばる。また美味いチーズや生ハムは腐りやすい。デザイン系の装飾品やファッションなどは気どる。

試行錯誤を経てたどりついたのがサラミである。

サラミはかさばらず、腐らず、気どらず、しかも大いにイタリア的である。イタリアの食の本筋である肉のうま味が凝縮されていて、そのうえ優れた保存食という重大な一面もある。ところが、サラミは都会の人々には好まれるものの、田舎ではあまり人気がない。生ハム等に比べると香りや味に特徴があって、慣れない者には食べづらい印象もある。そのせいかどうか、たとえば東京あたりの友人知己には喜ばれるが、地方では人気がない。

僕の故郷の南の島々では、豚肉がよく食べられるのに豚肉が素材のサラミはもっと人気がない。地方の人は日本でもイタリアでも新しい食べ物を受けつけない傾向がある。いわゆる田舎者の保守体質というものであろう。

生まれも根っこも大いなる田舎者である僕は、白状すると、イタリアに来て丸2年間ほぼ毎日食卓に出るサラミを口にできなかった。2年後に思い切って食べてみた。

以来、今ではサラミや生ハムのない食事は考えもつかない。

僕は自分が体験した喜びを親しい人々に味わってもらおうと、いつもサラミを島に持ち帰っている。だが、あまり歓迎されないおみやげは贈る自分もあまり喜ばず、正直少し疲れを覚えないでもない。


日本はその後、、口蹄疫、ASF(アフリカ豚熱)、高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の侵入を防ぐため、という理由で海外からの肉や肉製品の個人持込みを全面禁止しまた。

筆者のイタリア土産の主力打者であるサラミももちろん持ち込み禁止になりました。

イタリアは衛生管理の厳しい先進国です。言うまでもなくサラミや生ハムほかの製品は、峻烈な生産工程を経て店頭に出ます。

しかもイタリアの加工肉の種類の豊富と品質は、日本が逆立ちしてもかなわない。またその安全性はまぎれもなく世界のトップクラスです。

肉製品だけに関して言えば、あるいは日本のそれよりも安全であり安心できるとさえ感じます。

なので筆者は、サラミの日本への持ち込み禁止措置なんて一時的な対策に過ぎない。すぐに解除になると考えました。

ところがどっこい2019年、禁止措置は緩和どころか逆に強化されて、海外からの畜産物の持込みには3年以下の懲役、または最高100万円の罰金が科されることになりました。

しかもそれだけでは終わりませんでした。

翌2020年7月には家畜伝染病予防法が改正され、懲役年数は同じですが罰金は最高300万円にまで引き上げられたのです。

正直、目が点になりました。鎖国メンタリティーの日本の面目躍如、と思いました。

コロナ禍中での外国人締め出し措置にも似た、日本独特の異様な政策だと今も思います。

趣旨は分かるのです。島国の利点を活かした厳格なやり方で、合理的に行えば感心できます。

だが、日本人と外国人の区別をしないウイルスをつかまえて、日本人の入国はOKだが外国人はNGというのでは、排外差別主義的な政策だと批判されても仕方がありません。

肉製品の全面持込み禁止措置は、いうまでもなくコロナ政策と同じではありません。だが、コロナ対策に似たいわばヒステリックな思い込みが見え見えでうっとうしい。

あえてイタリアと日本の間柄だけに限って言います。

イタリアの加工肉の最高傑作である生ハムやそれに匹敵するサラミの日本への持込み禁止は、例えばイタリア政府が「イタリアでは寿司や刺身の消費を厳禁する」と言い張ることがあるとしたなら、それと同じ程度に愚劣きわまりない政策です。

 

 

 

 

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プーチン命、と叫ぶ極右のケセラセラ

イタリア極右政党「同盟」のサルヴィーニ党首が、ウクライナ国境に近いポーランドの町 プシェムィシル(Przemyśl)で、赤っ恥をかく失態を演じました。

彼はウクライナ難民を支援し連帯感を実地に表明したいとして、ウクライナからの難民が多く流入する同地を訪れました。

ところがプシェムィシルのヴォイシェク・バクン(Wojciech Bakun)市長は、サルヴィーニ党首がプーチン大統領の信奉者であることを問題にして、共同記者会見の場で面と向かって同党首を罵倒しました。

バクン市長は、プーチン大統領の似顔絵と彼を称える文句がプリントされたTシャツを持ち出して、サルヴィーニ党首の目の前に掲げました。そして言いました。

「ここにはあなたが友達と呼ぶプーチンのせいで故郷を追われた人々が、1日に5万人も国境を越えてやってきます。あなたがこのTシャツをまた着る勇気があるなら、それを着たままで難民センターまで案内して差しあげましょう。恥知らずめ!」

サルヴィーニ党首は、過去に何度もそのTシャツと同じものを着てプーチン大統領への友情と団結を呼びかけてきまsjひた。バクン市長はそのことをよく知っていて公衆の面前で彼に雑言を浴びせたのです。

サルヴィーニ党首はあっけに取られて、それからか細い声で「私は難民を支援し母親や子供たちを助けたいと思っている」と返し、そそくさとその場を離れました。

彼の背中には人々が、恥知らず、帰れ、などと叫んで追い打ちをかけました。

サルヴィーニ党首は反移民や反EUを標榜し、排外差別主義色の強い主張や政策を推し進めることで知られています。彼はフランス極右のマリーヌ・ルペン氏とも親しい。

サルヴィーニ氏はまたトランプ主義者でもあります。

彼は米大統領選挙キャンペーン中の2016年、アメリカを訪れてトランプ候補との面会を求めました。だがトランプ候補は、「Salvini who?(サルヴィーニなんて知らねえよ)」と側近にもらしただけで取り合いませんでした。

そのエピソードは当時、「サルヴィーニの“赤っ恥”事件」としてイタリアのメディアを沸かせました。

サルヴィーニ党首は今回、ポーランドとウクライナの国境の小さな町で、再び赤っ恥をかく事件を起こしてしまったわけです。

しかし、サルヴィーニ氏の名誉のために次のことも付け加えておきたいと思います。

欧州の右派、特に極右勢力は、ロシアのウクライナ侵攻によって窮地に立たされているケースが少なくありません。彼らはサルヴィーニ氏と同様に、おおっぴらにプーチン大統領を支持してきました。

欧州はウクライナを侵略し民主主義の王道を土足で踏みにじったプーチン大統領の蛮行に驚愕し、憤り、速やかに大同団結して立ち上がりました。

通常はそれぞれの利害に絡めとられて、足並みが乱れがちな欧州各国がすばやく結束したのは、恐らくプーチン大統領にとっても想定外の出来事でした。

ロシアの蛮行への欧州の怒りはとてつもなく大きいのです。

欧州の怒りはプーチン大統領を支持してきた極右勢力にも向けられています。

例えば1ヶ月後に投票が行われるフランス大統領選で、極右のルペン、ゼムール両氏への支持が急落しているのも、欧州の怒りを招いたプーチン効果のせいだと見られています。

サルヴィーニ党首が恥をかかされたのは、自業自得という面もむろんありますが、歴史の転換点に立つ欧州の暴風が、蒙昧な男を思いきり吹き飛ばした感があるのも否めません。

 

 

 

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プーチンの首級

NATOもEUも日本も、また中国とその追従者以外の世界の全ての猫も杓子も、ウクライナを全面的にモラル・サポートしています。

のみならず、武器や物資や金銭などの物理的なサポートもしています。

加えてロシアとベラルーシ以外の欧州の全ての国が、ウクライナ難民を大手を広げて受け入れています。受け入れる態勢でいます。

返す刀で、それらの全ての国と国民がロシアを、いやモンスターのプーチン大統領をこぞって指弾し唾を吐きかけています。

だが、全てのウクライナ支援国は、同時にウクライナを見殺しにしています。

軍事介入をしないからです。

ウクライナに軍事介入をしないのは正しい。なぜなら軍事介入は高い確率で第3次世界大戦を招く恐れがあります。

同時に、軍事介入をしないのは悪です。ウクライナとウクライナの人々を見捨て、子供たちを爆撃の炎火の中に置き去りにするからです。

そしてなによりも、無慈悲なラスボス・プーチン大統領を、したい放題にのさばらせるばかりで、いつまでも天誅を下せないからです。

プーチン大統領への究極の天誅は、軍事力によってのみ完遂されます。

経済制裁も最後には彼を破滅させることでしょう。

だがそこに至るまでに、余りにも多くのウクライナ人民の犠牲と屈辱と苦悩が生み出されることになります。

したがって彼はその前に排除されるべきです。

NATOのハイレベルの知略と権謀と軍略のネットワークは、いま必死にその道筋を探求しているに違いありません。

いうまでもなくそれは、技術的にも物理的にも不可能に近いミッションです。

だが成否は一旦さておいて、不可能を可能にしようとするのも、また彼らの任務なのです。

 

 

 

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プーチンの深謀遠慮が破綻するとき


2月26日、筆者はこのブログに

“結局、アメリカが先導する民主主義陣営は、ウクライナがロシアに自在に蹂躙されるままに、哀れなウクライナを見捨てることでしょう。

ウクライナを見捨てることでNATO加盟国を守り、自由主義世界全体の経済権益も守るのです。

そうやって海千山千の逆賊プーチン大統領はますます強くなり、中国のラスボス習近平主席は、香港を破壊した勢いで台湾を踏みにじり、尖閣を掻っさらって沖縄を強奪し、さらに九州へと魔手を伸ばしていく可能性がないとは誰にも言えません。

NATO もその他の世界の自由主義勢力も、そして尖閣と沖縄と九州を含む日本国全体も、ロシアの蛮行を指をくわえて見過ごせば、取り返しのつかない事態が連鎖的に起きるかもしれないことを、明確に意識しつづけるべきです”

書きました

それから10日後の今日、残念ながら筆者はその思いをあらためて強くした、と言わなければなりません。

2月24日のウクライナへの侵攻開始以降、ロシア軍は大方の予想に反して進軍にとまどい、停滞し、混乱さえしていると見られてきました。

それはプーチン大統領が、多くのことを見誤り、計算違いを犯し、判断をし損ねたからではないか。

具体的には自軍の力量を過大評価したり、逆にウクライナ軍の力を過小評価した。ウクライナ国民の抵抗も軽視した可能性がある、ということなど。

そして筆者は、プーチン大統領が犯した少なくない数の失策の中でも最大のミスは、アメリカが主導する西側世界が反ロシアで一気に結束することはない、と予測したことではないかと考えました。

自由と民主主義また多様性を重視する西側世界は、同じ価値観を共有することで各国が友好親和的な関係を保っています。だが、まさにその共通の価値観ゆえに、時として足並みが乱れます。

各国の足並みの乱れも自由主義社会のいわば美点なのです。なぜなら足並みが乱れるのは、それが全体主義体制下での出来事ではないことの証しだからです。

西側は2014年、例によって各国の足並みが乱れたために、ロシアによるクリミア半島の併合という蛮行を阻止できませんでした。

当時はドイツやイタリアなどがロシアへの強烈な経済制裁に難色を示しました。両国は、そして特にドイツは、エネルギーを大きくロシアに依存しているからです。

自由主義陣営はしばしばそうした混乱に陥ります。繰り返しますが、そこがまさに自由な民主主義社会だからです。

プーチン大統領は、足並みの乱れからくる西側世界の弱さを見抜いていて、今回の悪行にも自信を持って臨みました。

ところが彼の思惑とは裏腹に、自由主義陣営はただちに結束して、最大の難関とされたSWIFTからのロシアの締め出しなどを即決しました。

従来はクリミア併合時に見られたように、エネルギーをロシアに大きく依存しているドイツが徹底して反対するため、発動ができないのが習いでした。

だが今回はドイツは、自国の痛みを覚悟でロシアへの制裁措置を受け入れました。ドイツに次いで多くのエネルギーをロシアに依存しているイタリアも、迷うことなく賛成しました。

そうやって西側は一致団結しました。プーチン大統領はそのことにおどろき、進軍はしたものの挫折したロシア軍の弱さに苛立ち、西側をけん制しようとして-そのこと自体があらたな失策であることに気づかないまま-「核兵器を使用する」とまで示唆して、世界のさらなる反感を買いました。

彼は錯乱しているという憶測さえ生まれました。それは誇張が過ぎるとしても、少なくとも彼は冷静さを失い、ノーと言える側近が周りにいない独裁者の常で、ますます暴走する可能性が高まっていると見られました。

ところが3月3日、プーチン大統領は「自ら申し出て」フランスのマクロン大統領と電話会談をしました。

彼はそこで「何があってもウクライナでの軍事作戦を完遂する」と主張。軍事作戦は計画通り進んでおり、ウクライナが非軍事化などの条件を受け入れなければ作戦を続けると明言しました。

それに対してマクロン大統領は、あなたは嘘をついている。ロシアはこの作戦によって世界から孤立し、制裁によって経済破綻に陥る。高いコストを支払うことになる、と「型通りの」反論をしました。

「型通りの」反論とは、第3次世界大戦を恐れてロシアとの軍事衝突を避けようとする自由主義陣営の指導者は誰もが、今この時はマクロン大統領と同じ言葉で反論するしかないからです。

マクロン大統領とプーチン大統領は親しい仲です。彼らの電話会談は1時間半にも及び、お互いに言いたいことを言い合ったという印象があります。

2人の指導者の論争が端的に示しているのは-マクロン大統領ではなくプーチン大統領自身が電話会談を申し入れた時点で明らかになっていたように-プーチン大統領は錯乱などしていなくて、マクロン大統領すなわち自由主義陣営は、プーチン大統領のウクライナ侵略を止められない、という厳しい現実でした。

つまりロシアは、強力な経済制裁によって将来は弱体化する可能性が高いものの、プーチン大統領の思惑通り一旦はウクライナ全土を支配下に置く。最低でも国土を分割して一部を自らの属国にしてしまう。

言葉を替えれば、西側はやはりウクライナを見捨てるのです。

今この時の状況から判断すれば、短期的にはそれがウクライナ危機の行く末だと考えられます。

だが長期的には-民主主義体制側が大同団結してロシアへの強力な経済制裁を続けるならば、という条件付きですが-プーチン大統領が敗北する可能性のほうがはるかに高いと思います。

SWIFT事案ほかの、一致協力した自由主義陣営のロシアへの経済制裁は、それほどに強力なものです。

NATO構成国と、その味方である日本を含む世界の多くの国々は、ロシアの横暴を渋々認めざるを得なくなります。それを見て、中国が台湾への侵攻を開始するかもしれません。日本を巻き込む危険と共に。

ウクライナを侵略したロシアの論理と、台湾を狙う中国の行動規範は違う、というもっともらしい理由を持ち出して、その可能性を完全否定する人々もいます。

だがまともな理論や国際法など無視して、やりたい放題をやるのがロシアであり中国です。

クリミアやウクライナ、香港やチベットほかの歴史、また現実を見ればそれは明らかです。それらのならず者国家には、残念ながら議論のための「まともな議論」など全く役に立ちません。

可能性は低いが別のシナリオも考えられます。

自由主義陣営の支援を受けてウクライナが激しい抵抗を続け戦闘が長引いた場合、プーチン大統領には国内から強力な逆風が吹きつける可能性があります。

西側の巨大な制裁がロシア経済を破壊して、疲弊した国民の怒りがプーチン大統領に向けられるのです。

そうなった暁には、プーチン大統領は単に失脚するのではなく、ルーマニアのチャウチェスク、リビアのカダフィ、イラクのサダム・フセインほかの独裁者と同じ悲惨な最期を迎えることになるでしょう。

たとえそうはならなくても、プーチン大統領には勝利は舞い込みません。ウクライナ支配と引き換えに、この先彼は世界の怒りと侮蔑にさらされて生きていくことになります。

だが、最後になりましたが、考えることさえ憚られるもっと恐ろしい、もっと不快なシナリオももちろんあります。

今後の展開のよっては、プーチン大統領が行き詰まってしまう可能性があります。そのとき彼は事態を有利に導こうとして核のボタンを押す。

あり得ないとは断言できません。

彼はあり得ないと考えられたウクライナへの侵攻を実践した、冷徹な意志と狂気を秘めた怪異なのです。

 

 

 

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返り血を浴びる覚悟でロシア経済を徹底的に叩けば第3次世界大戦は避けられる

ウクライナの首都キエフで、ロシア軍の爆撃に追われて地下壕に避難し震えている、多くの子供たちの姿が人々の涙を誘っています。

バイデン大統領は、エスカレートするロシア軍のウクライナへの蛮行を非難して、「ロシアへの経済制裁に代わる措置は第3次世界大戦だ。だがそれはありえない」と明言しました。

その言葉を後押しするように、EUを含むアメリカの同盟国は「ロシアの銀行をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除する」と発表しました。

公布された共同声明には、欧州委員会とフランス、ドイツ、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカの首脳が署名しました。

ロシアへの厳しい経済制裁が発動される場合、国際決済システムSWIFTからロシアの金融機関を締め出せるかどうかが鍵とされてきました。

ロシアとの取引が多いドイツなどが強く反対していたからです。しかしロシアのウクライナ侵略はあまりにも重大だとして、ドイツも折れました。

SWIFTは国境を越えた決済、送金、資金の移動等が速やかにできる仕組みです。世界中の11000以上の銀行や金融機関が加盟しています。

SWIFTから締め出されることで、ロシア経済は大きな打撃を受けます。

また欧州委員会と前出の6ヶ国は、高額の投資をしたロシアの富裕層に与えられる、いわゆる「ゴールデンパスポート」も制限すると決めました。

それらの富裕層は、投資と引き換えに欧米諸国の国籍を取得し、欧米の金融機関を利用してプーチン政権を陰に陽に支援しているとされます。

ロシアがSWIFTから切り離されたのは大きな出来事です。

しかし、それだけでロシア経済が完全に麻痺して戦争遂行が不可能になるかどうかは不透明です。

SWIFTから排除されるのはロシアのすべての銀行ではありません。またSWIFT以外のルートでの取引方法もあります。

加えてロシアを支援する中国とその友好国が、SWIFTとは無関係な方式でロシアとの取引を維持して制裁の抜け道を作る可能性もあるでしょう。

「ロシアへの経済制裁に代わる措置は第3次世界大戦だ」というバイデン大統領の表現は、言い換えれば「ロシアへの経済制裁は第3次世界大戦に匹敵するものでなくては意味がない」ということです。

SWIFTにつづくロシアへの峻烈な経済攻撃が速やかに且つ連続して繰り出されるべきです。

第3次世界大戦の危険を避けるためには、第3次世界大戦に見合う規模での経済的犠牲さえ払う覚悟が必要です。

つまり大きな返り血を浴びる覚悟で、ロシア経済を徹底的に破壊すること。

しかも迅速に。

 

 

 

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プーチンにしてやられた民主主義世界の危うさ


ウクライナ危機に関しては、ここまであらゆる人の勝手気ままな分析や意見や感想や予測などを尻目に、プーチンとバイデン両大統領、ゼレンスキー大統領、そして英独仏の首脳など、当事者たちの動きや発言を逐一追いかけてきました。

ロシアがウクライナに攻撃をしかけたところで思ったことがあります。

つまりバイデン大統領は、諜報とロシアのクリミア併合などの直近の史実から、ロシアの軍事侵攻をほぼ正確に予測していながら何もしなかった、あるいは何もできなかった、ということです。

同時にプーチン大統領は丸ごと悪であり、性善説に基づく慈悲や惻隠の情や人間味などを、決して彼に期待してはならないということも明らかになりました。

バイデン大統領は、ロシアが「ウクライナに軍事侵攻はしない」と言い続けていたころから、逆に「ロシアはまもなく侵攻を開始する」と繰り返し言明してきました。

ウクライナ東部の親ロシア勢力が政府軍に攻撃されたというフェイクニュースをロシアがでっちあげて、そこにいる自国民を救済するためとか、親ロシア派の人々をウクライナの虐殺から守る、などの理由をこじつけてウクライナを侵略する、と言い張ったのです。

それに対してプーチン大統領は、ウクライナには侵攻しないと宣言し、クレムリンを訪れた独仏などの首脳に対しても、「ウクライナに侵攻する気はない」と明確に告げました。

だがプーチン大統領は、その間もウクライナへの軍事作戦を周到に考え続けていたのです。狂言強盗も真っ青の役者ぶりでした。

さらにプーチン大統領は、冬季オリンピックにかこつけて中国の習近平国家主席と会談。

密約を交わしました。

つまり冬季オリンピックが終わるまではプーチン大統領はウクライナを攻撃しない。だが彼が攻撃を開始した暁には、中国はロシアへの支持を表明する、というもの。

そして中国は、プーチン大統領のウクライナ攻撃を積極的に支持する言葉こそ使わなかったものの、ロシア支持を鮮明に打ち出しました。

片やNATOリーダーのバイデン大統領は、ロシアが小規模の侵攻に留めるなら制裁しない、といつものボケ失言などもかまして顰蹙を買いました。

さらに「ウクライナにはアメリカ軍は介入しない」と、言わぬが花の真実を強調しまくるミスなども犯しました。

それはまるで、ロシアにどうぞ侵攻してください、とでも言わんばかりの稚拙な対応です。このあたりが失言王の老害大統領、と彼が陰口を叩かれるゆえんです。

そうではありますが、しかし、バイデン大統領の予言、つまり米諜報機関の情報はおどろくほど正確なものでした。

なにしろプーチン大統領は、バイデン大統領の予告をほぼ全面的になぞるような形でウクライナに侵攻したのですから。

プーチン大統領は、ロシアは最強の核兵器保有国のひとつ、とタブーのフレーズまで発して世界を恐喝しました。

だがそれでも、民主主義の良心とまともな思考力を持つNATO 諸国は、即座に反撃はできません。

たとえ言葉上とはいえ、NATO側も核を火遊びの対象にしてやり返せば、全面核戦争の悪夢が現実味を帯びかねないからです。

つまるところ自由主義陣営のNATOとバイデン大統領ができることは、やはりロシアへの経済制裁です。

だが経済制裁は、軍事介入に比べて効力が極めて小さい。それは歴史が繰り返し証明しています。

通りいっぺんの制裁ではダメなのです。

通り一遍の制裁とは、制裁相手のみが打撃を受ける制裁のことです。

そうではなく、制裁の効果が自国経済に跳ね返って、制裁をかける側も大きな打撃を受ける制裁こそが、真に強力な罰則です。

NATO側は、欧米全体と日本またそのほかの世界のすべての民主主義国家を巻き込んでの、そんな巨大な経済制裁をロシアに科すべきです。

ロシアは、中国を筆頭にする世界の独裁また強権主義陣営を相手に貿易を行うことで、民主主義陣営が科す経済制裁のダメージを最低限に抑えよう目論んでいます。

だが自由主義陣営が、真に自らの大きな損失と疲弊を覚悟でロシアを締め付ければ、戦争を仕掛けずにロシアを確実に損壊させることができるでしょう。

それは同時に、ウクライナ危機とロシアの行く末をじっくりと観察、分析している中国を叩くことでもあります。

ロシアがこのままウクライナの略奪に成功すれば、中国は足並みが乱れ勝ちな民主主義陣営が組しやすいと見て、たちまち台湾への侵攻を決意するかもしれません。

ロシアがウクライナ危機で全面勝利を収めれば、それはそっくりそのまま中国の勝利でもある可能性が高いのです。

その意味でも、中国の後ろ盾も得て猛り狂っているように見えるプーチン大統領の野望は、必ず粉砕されなければなりません。

だが悲しいことに、民主主義陣営の各国がそれぞれの大きな犠牲を受け入れて、そこまで深く結束することはあり得ないでしょう。

誰もが自国の利益に目が眩んでいます。

結局、アメリカが先導する民主主義陣営は、ウクライナがロシアに自在に蹂躙されるままに、哀れなウクライナを見捨てることでしょう。

ウクライナを見捨てることでNATO加盟国を守り、自由主義世界全体の経済権益も守るのです。

そうやって海千山千の逆賊プーチン大統領はますます強くなり、中国のラスボス習近平主席は、香港を破壊した勢いで台湾を踏みにじり、尖閣を掻っさらって沖縄を強奪し、さらに九州へと魔手を伸ばしていく可能性がないとは誰にも言えません。

NATO もその他の世界の自由主義勢力も、そして尖閣と沖縄と九州を含む日本国全体も、ロシアの蛮行を指をくわえて見過ごせば、取り返しのつかない事態が連鎖的に起きるかもしれないことを、明確に意識しつづけるべきです。

 

 

 

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ジョコビッチ神話のプッツン

反ワクチン主義者のノバク・ジョコビッチ選手が、オーストラリアオープンから締め出されて以来初めて、英BBCテレビの単独インタビューに応じました。

彼はそこで今後もワクチンを打つつもりはないと示唆し、そのために全仏オープンやウインブルドンなどの世界大会に出場できなくなっても構わない、とも明言しました。

なぜそこまで思いつめるのか、という質問には

「自分の体内に何を入れるかを自分で決めたいからだ。私は常に自分の体に合うことをしている。健康や栄養に気を遣うことでアスリートとしての能力を高めてきた」

という趣旨の説明を返しました。それはつまり、ワクチンは自分の体に合わないから接種しない、という主張にも聞こえます。

だが新型コロナワクチンは、これまでに世界中で100億回以上の接種が行われ、世界人口の約6割が接種を受けました。安全と効果については十分以上の知見があります。

普及している全てのワクチンはごくまれに重い事故が起きたり、それよりも多い頻度で軽い副反応が起きたりもします。

副作用や副反応のない薬というものは世の中には存在しません。コロナワクチンも同様です。

ワクチンの安全性はこれまでのところ驚異的とも呼べるほどに高く、重症化や死亡を防ぐ効力も強力であることが明確になっています。

それにもかかわらずにジョコビッチ選手がワクチンは自分の体に合わない、と主張するのは不合理を通り越してほとんど笑止です。

コロナウイルスも体に合わないものです。だからわれわれの体内に侵入してわれわれを苦しめ重症化させ、最悪の場合は死に至らしめます。

一方、ジョコビッチ選手が体に合わないと主張するワクチンは、われわれの体内に入ってウイルスからわれわれを守りわれわれを救います。

そしてジョコビッチ選手も、天才的なテニスプレイヤーとはいえ、われわれのうちの1人であることは疑いがありません。

ジョコビッチ選手は世界ランク1位の一流中の一流のプレイヤーです。だから彼が自分自身の体を気遣い、食事や栄養など体内に取り込むものに神経質になるのは理解できます。

そういう注意深い、克己心の強い選手だからこそ彼は世界一になった、という見方さえできます。

また、その信念に殉ずるためには、世界規模の大会に参加できなくても構わないという決意も、考え方によってはすばらしいものでしょう。

だが一方でその頑なな考えは、根拠のないデマや陰謀論に影響されて、ワクチン反対を叫ぶ過激派の人々のそれにも酷似しています。

ワクチン接種を拒否する個人の自由は飽くまでも保護されなければなりません。ですから百歩譲ってジョコビッチ選手が正しいとしましょう。

だがコロナパンデミックに支配された社会全体は自由を失っていて、社会全体の自由があってはじめて担保される個人の自由は、それに伴い消滅しています。

社会全体の自由を奪ったパンデミックは、集団免疫によって終息させることができます。そして集団免疫は、社会の構成員の全てがワクチンを接種することで獲得できます。

そうやってワクチンの接種は社会の構成員全員の義務になりました。ワクチン接種は個々人をウイルスから守るだけではなく社会全体を守り、従って社会全体の自由も奪回するのです。

社会に抱かれて個人の自由を享受しながら、その社会がコロナによって自由を奪われている危機的状況下で、個人の自由のみを主張するのは狂気の沙汰です。

社会全体の自由がないところには個人の自由など存在しません。

社会全体の自由が存在しないところとは、ナチズムやファシズムや軍国主義下の世界であり、独裁者や独裁政党が君臨する社会のことであり、今われわれが体験しているコロナに抑圧支配されている社会です。

ワクチン接種は、社会全体の失われた自由を取り返すために、先に触れたように誰もが受けるべき義務と化していると考えられます。

ジョコビッチ選手は自由な社会に存在することで彼個人の自由のみならず、通常よりも多くの経済的、文化的、人間的な恩恵を受けてきました。なぜなら彼は有名人だからです。

それでいながら彼は、受けた恩恵への見返りである社会への責任と義務を履行することなく、利己主義に基づいた個人の自由ばかりを言い立てています。

それは実は、少数ですが世界中に存在する、ワクチン接種を断固として拒否する過激派の人々とそっくり同じ態度です。

反ワクチン過激派の人々の見解はほぼ常に狂信的な動機に基づいています。それは彼らの宗教にも似たカルトなのです。

彼らと同じ根拠を持つジョコビッチ選手の反ワクチン主義は、今後も矯正が不可能であることを示唆しているように思います。

従って彼がテニスの世界大会から締め出されるのは、やはりどうしても仕方がないこと、と見えてしまいます。




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ウソつきはドラマの始まりDA

NHKドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン』は、面白さと違和感がないまぜになった不思議なドラマでした。

高齢の夫婦が子供を授かった場合にあり得るであろう周囲の反応や、実際の肉体的また精神的苦悩が真剣に描かれていて、それが非常によかった。

従ってそのドラマは質の良い番組の一つと筆者は見なしています。

だが、ドラマの内容に関しては、ドラマそのものが成立し得ないであろう、と考えられるほどの根本的な疑問を抱き続けました。

つまりほぼ70歳の男女が、普通に交接して女性が妊娠することがあり得るのかどうか、という点です。

あり得ない、というのが答えではないでしょうか。

ここからは高齢者の性愛について書きます。ですのでそういう題材を不快に思う人は、先に進まないことをおすすめします。


『70才、初めて産みますセブンティウイザン』では、小日向文世と竹下景子が演じる夫婦が、実際に性交して妻が自然妊娠します。

ほぼ70歳の男女が肉体的に交合するのは、もちろん大いにあり得ることでしょう。しかし女性が妊娠するのはほぼ不可能なのではないか。

世界には超高齢出産の例があります。

まず体外受精による妊娠のギネス記録は66歳のスペイン女性。ギネスには載っていない世界記録は73歳または74歳とされるインド人の女性です。

ちなみに日本での最高齢は60歳女性。最近では自民党の野田聖子議員が、51歳で卵子提供を受けて出産したことが話題になりました。

それらは全て体外受精による妊娠、出産記録です。

男女の通常の性行為による妊娠、出産ではありません。

通常交渉による自然妊娠・出産では、ギネス記録が米人女性の57歳。ギネスに載っていない世界記録としては 59歳のイギリス人女性の例が知られています。

つまり女性は60歳くらいまでは普通に性交をして妊娠する可能性がある、ということです。

そうでない場合は性器と性器の交接ではなく、体外受精による妊娠だけがあり得ます。

ところがドラマの主人公の夫婦は、2人ともほぼ70歳なのに通常に性交して、その結果妻が妊娠します。

体外受精ではないのです。

それは奇跡という名の嘘です。

ドラマに嘘は付き物です。しかし、その嘘は大き過ぎて筆者はなかなか溜飲を下げることができませんでした。

そのことにも関連しますが、高齢の男女があたかも若者のように何も問題なくセックスをする、という設定にも違和感を持ちました。

江戸の名奉行大岡越前は、不貞をはたらいた男女の取調べの際、女(年上らしい)が自分を誘った、との男の釈明に納得ができませんでした。

そこで彼は自らの母に「女はいつまで性欲があるのか」と訊きます。すると母親は黙って火鉢の灰をかき回して、「灰になるまで。即ち死ぬまで」と無言で告げました。

母親は江戸時代の女性ですから、男女の秘め事を言葉にして語るのをはばかったのです。

ここイタリアでは2015年、84歳の女性が88歳の夫が十分に性交してくれない。セックスの回数が少なすぎる。だから離婚したい、と表明して世間を騒がせました。

両方のエピソードはたまたま女性が主人公ですが、男性もきっと同じようなものでしょう。

人間は死ぬまでセックスをするのです。

だがそれは年齢が進むに連れて丸みを帯びていきます。性器と性器の結合よりも、コミュニケーションを希求する触れ合いのセックスへと移行します。

いわば男女が互いに「生きている」ことを確認する行為になります。

仕方なくそうなるのです。なぜなら年齢とともに男性は勃起不全やそれに近い足かせ、女性はホルモン障害によって膣に潤いがなくなり、性交痛とさえ呼ばれる困難を抱えたりするからです。

そのため彼らの情交は、愛の言葉に始まり、唇や手足や胸や背中に触れ合って相手をいつくしむ、というふうに変化するとされます。

むろん高齢になっても男性機能が衰えず、女性も潤いを保つケースもまた多いことでしょう。ドラマの夫婦もそういうカップルのようです。

妻は通常性交で妊娠しますからまだ閉経していない。従ってホルモンのバランスも良好で膣も十分に濡れる、と理屈は通っています。

一方「普通に」身体機能が衰えていく高齢者のセックスでは、体のあらゆる部分が性器だとされます。

それは男女が全身を触れ合う「豊かな癒し合い」という意味に違いありません。

同時にそれはもしかすると、若者のセックスよりもめくるめくような喜びを伴なうものであるのかもしれません。

なにしろ体全体が性器だというのですから。

『70才、初めて産みますセブンティウイザン』の夫婦のセックスは、癒し合いではなく性器と性器の交接です。そうやって妻はめでたく妊娠するのです。

再び言います。人は死ぬまでセックスをする生き物です。従ってドラマの夫婦の性交は当たり前です。

ドラマはその当たり前を、当たり前と割り切って、一切の説明を省いて進行します。

そして進行する先の内容は十分に納得できます。

面白くさえあります。

それでも筆者は70歳の女性の自然妊娠という設定を最後まで消化できませんでした。

それを引き起こした老夫婦の、「普通の性交」にもかすかな引っかかりを覚え続けました。

高齢の男女は、誰もが肉体的に大なり小なりの問題を抱えています。性的にもむろんそうです。それについては先に触れました。

そしてドラマの趣旨は実はそこにはありません。老夫婦の性愛のハードルを越えた先にある「人間模様」が主題です。

それは既述のように面白い。

だが、しつこいようですが、70歳にもなる男女が、夫はどうやら普通に勃起し、(閉経していない!)妻は濡れて、問題なく交わって妊娠のおまけまで付いた、という部分がどうしても苦しい。

ドラマの夫婦ほど高齢ではないものの、もはやまったく若くもない筆者は、ハードルの部分も気になって仕方がありませんでした。

そんなわけで、残念ながら完全無欠に「お話」の全てを楽しむことはできませんでした。

 

 

 

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